日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P1209
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発表要旨
南アルプス・野呂川上流域におけるヤナギ・ハンノキ属樹種の分布を決定する地形学的特徴
*近藤 博史酒井 暁子若松 伸彦
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抄録
はじめに
日本において、ヤナギ、ハンノキ属樹種は河川植生を形成する主要な要素となっている。それらの分布に関する研究は、東日本の主要な河川において、主にヤナギを対象として行われており、河川勾配や河川堆積物に良く対応することが知られている。本研究では、南アルプスの亜高山帯の渓流域において、地質の河川勾配と河川環境への影響、およびそれらの河川植生分布への影響を検討した。

調査地
野呂川は、南アルプス・北岳と間ノ岳を源流とする河川あり、途中で白鳳渓谷より早川に名前を変え、富士川に注ぐ。上流域では、両俣で右俣と左俣に分かれる。調査地は、両俣から左俣大滝までの1.8kmの区間(標高2000~2200m)である。周辺植生は、シラビソ等の亜高山性針葉樹が優占し、河川沿いには、オオバヤナギ、ミヤマハンノキなどの樹種が分布している。この周辺の地質は、緑色岩、チャート、メランジュからなる白根層群で形成され、南アルプスの中でも地形は特に険しい。

調査方法
調査は、2011年8月に野呂川の上流部、両俣から左俣大滝において行った。その区間で詳細な河床勾配を計測するために河川の縦断測量を行った。同時に測量地点周辺の河床において優占するヤナギ・ハンノキ属樹種を記録した。立地環境を把握するために、任意の地点で河床の様子、河床幅を記録し、河床において基盤岩が露出している場所では、その岩石の種類を記録した。堆積物などで露岩が見られない場所での地質の把握には、地質調査総合センター発行の5万分の1地質図幅「市野瀬」を参考にした。

結果・考察
地質の河床勾配への影響として、地質の境界において河床勾配が変化する傾向があった。これは、チャートが他の岩石に比べて硬く、侵食されにくい性質が関係していると考えられた。特に、チャートで構成された場所から下流側のメランジュにかけての地質の境界で、河床勾配が急になった。同時に、河川幅も狭く、河床に基盤岩が露出している所が多かった。そのような場所では、ミヤマハンノキ、ヤハズハンノキが優占する傾向にあった。 
一方で、地質の境界から上流側では河床勾配が緩くなった。河床に基盤岩が露出していることは少なく、多くが土砂堆積地となっていた。これは、チャートがダムの役割を果たし、上流からの土砂を堰き止め、堆積地となりやすいからであると考えられた。そのような場所では、オオバヤナギやオノエヤナギが優占していた。ヤハズハンノキとオノエヤナギは、全域には分布せず、それぞれ特定一定箇所より上流では分布しなかった。これは河床幅や標高的な分布上限が考えられた。特に、オノエヤナギに関しては、河床幅の広い下流のみの分布が顕著であった。このように、地質と、河川環境と河川地形の関係は、密接であり、植生分布を考える上で重要であると示唆された。

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© 2012 公益社団法人 日本地理学会
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