抄録
大地の遺産には,保護保全対象となっていない地域・場所で選定される場合と,国立・国定公園・都道府県立自然公園・世界自然遺産などのいわゆる保護地域で選定される場合,さらにジオパークで選定される場合がある。法的な裏付けがある保護地域とはいっても,公園である以上は観光客の利用を基本としているため,国立・国定公園や世界自然遺産に指定・登録されていることが,多くの人を寄せ付けることになってしまう危険性が高い。観光客が現場に行くことができれば,保護保全すべき対象物が大きなインパクトを受けることになってしまう。指定した大地の遺産を多くの人に知ってもらうことの重要性がある一方,容易に人為的影響を受けやすい遺産については保護保全を優先すべきであり,ここにジレンマが生じる。人の踏圧だけでも破壊につながり得るトムラウシ山の構造土や,高根ヶ原のパルサなどは,大雪山国立公園という一つの公園の中にあっても,その他の大地の遺産とは異なるレベルでの選定が行われるべきであろう。 一方で,保護地域のなかにこうした保護保全の価値が高い大地の遺産が存在しているときには,管理者が存在している点や,保護保全の必要性を国民に伝えやすい点で保護地域にはメリットがある。ただし,この際に,管理者である環境省や都道府県の理解・協力が不可欠となる。 大地の遺産に関連した研究の進展がなければ,ジオに関係した「守るべきサイト」が保護地域にたくさんあることを環境省が認識することは難しい。大地の遺産に関連した調査・研究を推進すべきである。大地の遺産が国民に広く知られるようになった時には,生物多様性の重要性と同様にジオ多様性の重要性が理解されていることを目標にすると良いだろう。 さらに,「守るべきサイト」の調査に対しては,研究者自身の側にも注意すべき点がある。大地の遺産は,すべて同じレベルあるいはカテゴリーや目的で選定するのではなく,すでに研究者でさえ可能な限り立ち入るべきではない,まさに「守るべきサイト」というカテゴリーの設定が必要である。 以上のように,保護地域において指定される大地の遺産には,観光地としての利用上の意義だけではなく,保護保全上の意義を認めるべきであり,法的拘束力をもつ保護地域としてのメリットを最大限に強調し活かすべきである。 そのためには,保護地域における大地の遺産選定作業に環境省を巻き込むと良いだろう。