日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 324
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発表要旨
産学連携の空間特性に関する分析
九州大学の事例
*小柳 真二
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抄録
ローカルな地域内における産学連携に焦点を当てる従前の議論に対し,近年の調査研究では,大学の側から連携相手とのリンケージをとらえるとノンローカルな連携の方が優勢な場合もあることが明らかになっている。しかしながら,それらの成果においてはリンケージの量的な把握に終始する傾向があり,質的な側面,すなわち対面接触の頻度や通信手段によるその代替など相互の知識・情報移転の実態については必ずしも明らかになっていない。そこで本研究では,九州大学教員と企業等の組織との間で行われた共同研究を事例に取り上げ,そのリンケージを量的のみならず質的に把握した。
まず,共同研究の実績リストからリンケージを技術分野別,連携相手組織の種類別及び所在地別に集計を行った結果,次のことが明らかになった。①リンケージは全技術分野では81%が九州外とのものであるが,②技術分野別には,例えばナノテクノロジー・材料分野においては九州外が90%であるに対し環境分野では同71%にとどまるなど,ばらつきがある。次に連携相手企業の規模に注目すると,③全技術分野では,九州外の大企業とのリンケージが多いのに対し中小企業とのリンケージは九州内に限定されている傾向が強い。ただし,④九州内外での連携相手企業の規模は技術分野により異なっている。
次に,ヒアリング調査による質的把握の知見として,①暗黙知や秘密性の高い情報の対面接触による共有は依然として重要であるが,②それ以外の情報共有については電子メール等の通信手段によって代替されている。また③一般的に対面接触の頻度は少なく,数ヶ月に一度程度の接触で済んでいる場合が多いが,④長期にわたって連携を行う場合には企業側の研究員を受け入れることでより頻繁なやり取りがなされている。ただし,技術分野や研究の局面(基礎寄りか応用寄りか)の違いを背景として,各教員の連携方針は多様である。
それにもかかわらず,連携の継続段階において,パートナーとの地理的近接性がほとんど重要でないことは教員の共通認識であり,このことは量的把握の結果とも整合的である。ただし,連携の開始段階においては,連携に適した相手と巡り合う機会があるかどうかが問題となる。この機会は,特に中小企業にとっては,大学の産学連携部門や地方自治体,産業支援機関などにより提供されることも多く,この文脈において地理的な近接性や領域性が重要であると考えられる。
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© 2012 公益社団法人 日本地理学会
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