抄録
1 はじめに
本報告は、近世期の京都に関する地誌・案内記類を対象史料として、当時の商工業者・文化人などの居住地をデータベース化する取り組みを紹介するものである。また、本データベースとGISを連携させて、商工業者・文化人らの居住地分布の時空間的変遷について、試験的に分析を試みた具体的事例の結果も示したい。本取り組みにおいて注目した史料は、『京羽二重』とそれに関連する地誌・案内記類である。このシリーズには、「諸師諸芸」・「諸職名匠」の項目が設けられ、当時の文化を支えた芸事の師範や伝統工芸品の商工業者に関する名前・住所が職種ごとに掲載されている。
2 データベース化の対象:京都府立総合資料館所蔵史料
地誌・案内記類については、影印で写真が確認できるものや、活字で利用できるものが多数ある。しかし、原本が存在していながら紹介されていないものも多い。そこで、京都府立総合資料館が所蔵する地誌・案内記類を基盤史料と位置付け、デジタル撮影を行った。撮影は、立命館大学アート・リサーチセンター(ARC)の協力のもとで進められ、70点(202冊)、11,138カットの画像が作成された。現時点では、パスワード付きでARCの古典籍書籍閲覧システムよりデジタル画像の閲覧が可能である。
3 事例:漆器関連産業の空間的分布
京都の地誌・案内記類には、あらゆる職種の住所が掲載されており、その多くは縦横の通名で表されている。つまり、交差点レベルで産業の分布構造を復原することが可能である。本報告では、試験的な分析として、漆器関連産業の商工業者を取り上げる。GISを用いてこれらの住所情報から50年ごとの空間的変遷を示す地図を作成した。本図からは、初期から中期にかけては洛中全体に分布していたが、19世紀なると下京中心の分布に変化した様子が明らかにされた。
4 おわりに
このように地誌・案内記類に記述された情報を統合してGISデータを作成することで、近世京都の多年次に及ぶあらゆる産業に関わる人々の分布を示す地図の作成が可能になる。現時点では画像と書誌情報のデータベースであるが、これをGISと連携・発展させ、商工業者・文化人からみた産業都市京都の新たな一面を描き出すことを本取り組みの最終目的としたい。なお、京都府立総合資料館のトップページから本データベースへのリンクを作成するなど、一般公開に向けた準備を進めている。