日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 408
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発表要旨
京都市北区上賀茂における野菜行商の存続要因
*橋本 暁子
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キーワード: 行商, 野菜, 京都, 上賀茂
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抄録
 本研究は,京都市北区上賀茂における野菜生産および行商の変化と実態を検討し,野菜行商が存続している要因を明らかにする.本研究では,1662年以降の集落は上賀茂地区,柊野地区,深泥池地区,3地区全体を上賀茂と記す.
 上賀茂では,明治期以降,本格的に野菜の栽培および行商が開始されたが,高度経済成長期を通じて変化が見られた.まず,1960年から1975年にかけて上賀茂全体で世帯数が急増した.これに伴い農地面積が減少し,離農あるいは兼業農家が増加した.また,農地をマンションや駐車場などに変える農家も出現した.1950年代後半から1970年代にかけては,農業器具の機械化と化学肥料の普及により農作業にかかる労働力が軽減し,替わりに野菜の栽培品目数が増加した.農業器具の機械化以前は,重労働であった農作業を男性が担い,結果として女性が行商を担っていたが,女性が行商を行うことが慣例化し,現在も女性が行商を行っている.また,1950年代から1960年代にかけて農家の若い女性が運転免許を取得し,リヤカーから軽トラックによる運搬に切り替え,行商範囲が拡大した.
 現在,上賀茂の世帯数は5,192,農家戸数は253で,行商を行っている農家は55戸である.上賀茂地区と深泥池地区では行商以外にスグキの生産,柊野地区では米による収入を得ており,不動産収入はいずれの地区の農家も得ている.行商従事者は女性が圧倒的に多く,60歳代の女性が最も多い.夫婦間での作業内訳は,主に夫が圃場を管理し,妻は行商と夫の作業の補助を行う.妻は野菜の販売量を夫に報告し,翌日の収穫量を夫が判断するため,妻の報告が重要な指標となる.農地面積は平均50.6aである.野菜の栽培品目数は,上賀茂地区の表作が約17.5種類,柊野地区の表作が約27.5種類,裏作は約17.8種類と,多品目を少量ずつ栽培している.しかし,所有する農地面積が少ないため大量生産ができず,共同出荷は行われてこなかった.購入客は,「作っている人の顔が分かるから安心して買うことができる」と話し,農家が直接販売することで野菜に対する信頼が維持されていることが分かる.
 流通機構が整備されている現代においても,上賀茂で行商が野菜の主な販売手段である要因は,1戸当たりの農地面積が狭小であるために大量生産ができず,共同出荷に適さない点に集約される.
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© 2012 公益社団法人 日本地理学会
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