日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 407
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発表要旨
大都市近郊の公有地化された農地の維持システム
東京大都市近郊の見沼田圃を事例として
*髙木 陽光
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抄録

大都市近郊において、農地の減少と維持、農地の都市的土地利用への転換と放棄は、社会的な問題となっている。大都市近郊農地の維持システムに関する今後の研究課題としては、地域資源の持続的な維持・利用を目的として、政策や計画をより強く施行する研究が必要であること、農地の維持や耕作放棄地の防止は農村の振興における重要な要素であり、その手法や対象地域、効果についての研究が今後ますます必要とされる。そこで本研究では、大都市近郊農地の維持システムのひとつの方法である公有地化に焦点を当てる。研究目的として、公有地化された農地の社会的意義とその維持システムについて研究する。そのため東京大都市近郊において、一番大規模に農地の公有地化事業が行われている埼玉県の見沼田圃の公有地化事業を事例に、農地の公有地化の契機と、公有地化された農地を維持するために行政が行っていることを分析する。具体的には、行政が買取った公有地の維持・管理を委託している市民団体の中でも、一番広い面積の維持・管理を行政から任されているグラウンドワーク川口を事例に考察する。そして①公有地化された農地の利用主体(行政・市民団体・法人・教育機関・市民)と②公有地化された農地の利用目的と③公有地化された農地の地理的立地の3つをフレームワークとして、それらの関連を研究する。その結果、グラウンドワーク川口のイベント利用回数とイベント参加者の推移から、創立期(1998~2001)・発展期(2002~2006)・安定期(2007~2010)の3期に分類した。そして3期を比較すると、創立期では、川口自然公園での活動で、少ない利用目的でも利用主体が全て連携していることが多かった。発展期では、公有地の管理を委託され、イベント数・利用目的が増加した。また創立期・発展期とも75%のイベントにおいて利用主体が連携して行われていたが、安定期では、公有地の管理委託面積が増加し、連携して行われるイベントは45%と、他の2期より市民団体の役割が強まった。利用主体の連携が発展期より弱くなっているが、利用目的は少し増加した。しかしイベント回数の減少が、公有地化された農地の維持理由を弱めた。つまり公有地化された農地は、公有地という性質上、生産性の向上・利用目的の増加・利用主体の連携強化を図り続けなくても維持され、人々にレクリエーションや教育の機会などを提供していた。

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