日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 216
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発表要旨
カスケード山脈ブルーリバー流域における土地利用と林野火災の歴史
*高岡 貞夫スワンソン フレデリック
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抄録
本研究では、オレゴン州カスケード山脈中央部に位置するブルーリバー流域において、林野火災と土地利用の歴史を復元し、本地域の植生の成立に重要な火災発生の歴史と人間活動との関係を検討することを目的とする。先住民およびヨーロッパからの入植者による土地利用と林野火災の関係については既にいくつかの研究があるが、それらの研究では土地利用と林野火災の双方とも、空間分布パターンに関する情報が乏しい。本研究では、両者の空間分布パターンに着目して分析を試みた。 調査対象地域としたのは、ブルーリバー流域およびその周辺地域の35600haである。樹冠の大きさと高さが一様に見える若齢林(一斉林)を1946年撮影の空中写真で判読し、0.5ha以上の面積を持つ林分についてオルソ写真上で図化した。これらの一斉林の林齢を、既存の年輪データと、新たに得た年輪コア試料、伐採地にある切り株から得た年輪情報などを用いて推定した。 文献や古地図(GLO Survey Platsや旧版の地形図など)からブルーリバー流域の土地利用の歴史を推定し、過去の土地利用の空間パターンの復元を試みた。本地域の土地利用の時代変化を特徴づける1800-1830年、1831-1860年、1861-1880年、1881-1920年、1921-1930年、1931-1946年の6つの時期について、一斉林分布との関係を分析した。分析結果によると、一斉林を形成するような強度の火災は先住民が利用したトレイルの近くに集中していなかった。このことは先住民が本地域において主要な火災発生源でなかったことを示唆している。これはBurke (1979)によって示された、先住民がカスケード地域の森林に意図的に火を放ったことはないという見解と一致する。焚き火などが火災発生に繋がることはあったにせよ、本地域に住んでいた先住民が狩猟やトレイルの維持、野生果樹の生産性向上の目的で積極的に火を使用することはなかったと考えられる。トレイルとは別に、夏季のベースキャンプがおかれる主要河川の合流点付近でも火災が起きた可能性があるが、先住民の人口が急減する1830年代以前に成立した一斉林がそのような場所の周囲に集中するという傾向は見出せなかった。ヨーロッパ人による羊の放牧が始まった1861-1880年には、より多くの一斉林が放牧トレイルの近くに分布するが、1881-1930の期間には必ずしも放牧トレイルの近くに分布しなかった。このことは放牧を開始した当初は草原の維持のために火入れをしていたが、その後は火の取り扱いに注意深くなったという説(Coville 1898)を裏付けるものとなった。
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