日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P1212
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発表要旨
モンゴル・カラマツ林における虫害被害の拡大と再生
年輪年代学による解析
*阿部 直美子石川 守米延 仁志TSOGTBAATAR Jamsran
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抄録
1.はじめに
虫害は森林火災や過剰伐採と合わせて,森林を衰退させる大きな要因のひとつである.近年、モンゴルでは大規模な虫害によって森林が広範囲に枯死することが問題になっている. 虫害拡大の大きな要因として考えられるのが,気候変動や周辺の地理的条件・水分条件などである. 本研究では主に年輪年代学の手法により,森林が虫害後に衰退または再生する過程とその要因を明らかにすることを目的とする.年輪幅に加え,早材や晩材幅,さらに細胞壁の大きさなどを詳細に分析・解析することにより,気候変動や災害の履歴も読み取ることができる.スイスでは虫害を対象にした研究も行われており,モンゴルの森林においても適用できると考えている.
2.調査内容
現地調査は2011年7月から8月にかけて,ウランバートル近郊で3か所,ヘンティ県で1か所行い,調査地域を順にNKH,KH,SH,TSと名付けた.各調査地域では成長錐を用いて年輪解析に使うサンプルを採取し,年代決定には樹齢50年以上のカラマツ木サンプルを用いた.サンプル採取地点の虫害による被害状況は,20×20mの方形区内での毎木調査と虫害被害調査(キクイムシなどが開けた穴のカウントなど)により評価した.また,現地の人から虫害や火災の履歴などの情報を聞き取った.
3.これまでの結果
KHでは32年から187年,SHでは43年から116年の樹齢のサンプルを得ることができた.Schweingruber(1996)によると,虫害を受けた年とその後1~3年間は形成される細胞が通常より少なく,晩材の細胞壁が薄い特徴が年輪に現れる.サンプルの切片を電子顕微鏡で観察したところ、KHとSHの両方のサンプルで同じような特徴を観察することができた.
4.今後の展望
より多くの試料を用いたクロスデーティングによって年代の確度を向上させる.その結果を個々のサンプルから得られた虫害履歴と対比させ,同じ時期に同じ特徴を示す年輪を探し,虫害が発生した時期を決定する.またその結果を過去の気候データなどと比較したい.
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© 2012 公益社団法人 日本地理学会
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