日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P1204
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発表要旨
気候変動による生物への影響評価のための生物分布モデルの比較
*大西 有子ベリー パム
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抄録
生物分布モデルは、現在の生物の分布情報と気候データの関係をモデル化し、将来の気候下で生物の潜在的分布域を予測するモデルである。これまで日本における研究は少なく、特に最新の機械学習系のモデルを使った研究は非常に限られている。本研究では、日本の各気候地帯を代表する植物14種に対し、従来から使われてきた樹形モデル(CTA: Classification Tree Analysis)や一般化加法モデル(GAM: Generalised Additive Models)の他に、ニューラル・ネットワーク(ANN: Artificial Neural Network)、一般化ブーストモデル(GBM: Generalised Boosted Models)、ランダム・フォレスト(RF: Random Forest)を加えた、5種類の手法で生物分布モデルを構築し、結果を比較した。精度の比較には、AUC(Area Under the Curve)値を使用した。

解析の結果、AUC値は0.790-0.981であり、全般的には高い精度のモデルが構築されたと言える。最も精度が高かった手法は種によって異なったが、平均値では、ANNが最も高く(0.930)、続いてGAM(0.925)、GBM(0.924)、RF(0.919)、CTA(0.895)の順であった(図1)。樹種別に見ると、分布域が限定されている高標高に分布する種(Abies mariesii, Abies veitchii 等) では比較的どのモデルも精度が高かったが、分布域の広い種(Quercus crispula, Quercus serrata 等)では精度が低い傾向があった。モデル間のばらつきは、分布域が限定されている種の方が、幅広い分布域の種に比べて、大きかった。よって、このような種を対象とした研究では、精度の高いモデルを選択することが特に重要である。CTAは、空間自己相関に対する感度が高い傾向があり、特に地形が複雑で、分布が限定されている固有種の数も多い日本では、CTA、及びCTAがモデルの基盤に組み込まれているGBMやRFは、精度が低くなることが考えられ、ANNのような機械学習系のモデルがより適していることが明らかになった。
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© 2012 公益社団法人 日本地理学会
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