日本地理学会発表要旨集
2012年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 218
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発表要旨
ナミビア北東部,モパネ植生帯においてシロアリ塚上に形成される植生の形成過程
*山科 千里
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抄録
はじめに:サバンナにおいてシロアリのバイオマスは草食動物に匹敵すると言われ,生態系において重要な役割を果たすことが指摘されている.シロアリは塚の形成や食物の貯蔵を通して空間や資源の不均一なパッチを生み出すため,サバンナにおけるパッチ動態の一因としても議論される.空間や資源などの不均一性は植物相や動物相の多様性を高めることが指摘されているが,サバンナの植生動態におけるシロアリ塚の機能は十分議論されていない. 南部アフリカの20°S付近には植生帯がみられる.単一種で純林を形成し,樹形や植生景観の地域差が大きいなどの特徴をもつが,これらの特徴をもたらす要因は十分明らかになっていない. 以上から,本研究は,ナミビア北東部に分布するモパネ植生帯においてシロアリ塚上に形成される植生の特徴を明らかにすることを目的とし,純林を形成する傾向をもつモパネ植生帯においてシロアリ塚のパッチが果たす機能を検討する. 方法:ナミビア北東部,カプリビ州に位置するM村で計4ヶ月(2009年10月~12月,2010年11月~12月)にわたる現地調査を行った. 結果と考察 (1)シロアリ塚の多様性生成機能:本調査地の植生は,① “モパネ林”,②“D. cinerea林”,③“混合林”の3つに分類された. シロアリ塚上の植生は,塚の分布する周囲の植生タイプを反映し,上記の3つの植生タイプに分類された.しかし,各植生タイプの中で,シロアリ塚は周辺に比べ,樹木密度や出現樹種数が高く,シロアリ塚にのみ出現した木本種が21種あった. 以上から,シロアリ塚は出現樹種数の少ないこの地域で木本種の多様性を生み出すパッチとして機能していると考えられる. (2)シロアリ塚の形態と木本種の侵入過程:調査地ではキノコシロアリ亜科のMacrotermes michaelsaniによって形成された塚がみられ,活動中と放棄に分類された.放棄された塚は活動中に比べて基部の径が大きかった.活動中の塚は約3割に樹木が全く見られなかった.樹木の見られないものを除くと,活動中の塚には塚一つ当たり平均2種,4本の木本種が出現したのに対して,放棄された塚では平均5種,20本の木本種が出現した.特に,Salvadora persicaはシロアリ塚に特徴的な樹木で塚の中央付近に出現する傾向がみられた. 以上から,S. persicaはシロアリ塚に先駆的に侵入する種と考えられる.さらに,この種が鳥散布種であること,活動中のシロアリ塚は煙突状の特異な形態を持つことから,塚が止まり木の役割を果たし,鳥によって種子が散布されていることが考えられる.
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