日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 305
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発表要旨
積雪寒冷地の沿岸都市内部における津波避難(3)
釧路市における保育園児の津波集団避難に関する分析
*最上 龍之介橋本 雄一
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抄録


1.研究目的

2012年6月に北海道から太平洋沿岸自治体に関する新しい津波浸水想定が発表された。それに伴い当該自治体では、その想定にもとづく津波対策の検討が行われ、その中で単独での行動が難しい保育園児たちの避難に関する議論が行われている。しかし、地理学の分野では保育園の津波対策に関する研究蓄積は稀少である。

そこで本研究は、釧路市認可保育園を対象とした聞き取り調査をもとに、保育園児の津波集団避難の課題を明らかにする。なお、対象地域は、津波浸水想定域に居住する人口が北海道で最大の釧路市とする。

分析では、まず各保育園への聞き取り調査から,東日本大震災発生時の対応と現在の津波避難計画を把握し,次に,根室・釧路沖で地震が起きた場合に想定される津波避難への対策と問題点を明らかにする。最後に,これら結果をまとめて,保育園を対象とした聞き取り調査をもとに、保育園児の津波集団避難に関する課題について考察を行う。

2.東日本大震災発生時の対応と現在の計画

2011年3月11日に生起した東日本大震災において釧路市は津波被害をうけ、5園が徒歩で園外避難、3園が園内待機を実施した。避難先は、2階~3階の公共施設が大半であった。

この経験により各保育園では、津波対策への意識高揚と、避難先の階数が重視されるようになった。避難先に関して階層が重視されるようになったのは、2012年6月に釧路市役所子ども保健部から、保育園近隣の4階以上の建物を抽出し、そこから避難先を指定するよう指示された点が大きい。その結果、各保育園の避難先は、高層の公営住宅や民間病院といった公共性の低い建築物へと移っている。

3.釧路市認可保育園の津波対策と課題

聞き取り調査を行った時点では、各保育園の避難対策は全て徒歩移動によるものである。避難先は、学校、公営住宅、病院であり階数が重視される傾向にある。なお、市からの避難勧告を待たずに、避難を開始することが各保育園に認められている。

このような津波避難計画に対して,以下の5点が問題点として明らかになった。

(1)近隣に4階以上の高層建築が存在しないために、浸水深以上の避難先が選定出来ていない保育園が4園存在する。(2)冬季の避難対策に関して、まだ十分検討が進んでいない。(3)0~1歳半までの子どもは歩行困難であり、高所避難に際し、避難時間がかかる点や保育士など避難援助者にかかる負担が大きい点が存在する。(4)園外活動時に津波が発生した場合、引率する職員が少ないため、集団統率面に不安が残る。(5)保育士の法定労働時間により朝・夕に人員の不足しやすい時間が発生する。

これらのうち、(1)と(2)は市や保育園の避難計画に関する問題であり、特に(1)は保育園の立地に関する問題である。一方、(3)(4)(5)は保育園が抱える制度的問題である。子どもの大人と比較した際の歩行速度の遅延、歩行困難な子どもの所属、そしてそれを援助する職員の人員的制約が相互に関連して問題を深刻化させている。

4.課題への対策

以上の分析から保育園の抱える避難対策の現状と課題について、東日本大震災以降、避難先の階層が重視されるようになったこと、歩行困難児の存在とその避難支援を行う人員的制約の解消が課題となっていることが分かった。

避難先の階層重視の傾向は、避難先の無い保育園を発生させている。また、保育園が抱える子どもの歩行困難と人員不足に対して、地縁組織の協力等の外部人材の導入を目的とした共助体制の構築が重要だと考えられる。今後は、浸水想定域にある他の自治体と比較を行い、釧路市の課題や冬季環境による避難負荷を明確にしたい。なお、本発表は科学研究費補助金基盤研究C [課題番号24520883]の成果の一部である。


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© 2013 公益社団法人 日本地理学会
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