日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S0204
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発表要旨
原子力災害後に多様化する草の根の保養支援とその意義
*西崎 伸子
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抄録

1.  はじめに 2011年3月の原子力災害によって、広範囲の自然環境が放射能によって汚染された。このことは、環境汚染とともに、原発労働者や一般公衆の被曝問題を長期にわたって考えなければならない社会が日本に誕生したことを意味している。本報告の目的は、原子力災害後の社会のあり方を考えるために、1)子どもの被ばくリスク軽減の観点から、これまで実施されてきた国、行政、原因企業および市民団体の施策や取り組みを整理すること、2)市民団体がとりくむ草の根の保養支援活動の実態と意義を明らかにすること、3)地理学が対象としてきた「人と自然のかかわりと断絶」を考察することとする。   2.  対象と方法 子どもを対象とするのは、若年者の放射線感受性が高いことが、広島、長崎の原爆被曝者やチェルノブイリの原子力災害の調査から明らかにされてきたからである。福島県内外に今も15万人が避難をし、県外避難者6万人の多くが、子どもとその保護者による避難であるといわれている。避難区域が解除されても、もとの自治体に戻らない/戻れない人々が数多く存在するのは、インフラの未整備や就労の問題だけでなく、放射線による子どもへの健康影響に対する不安が未だ消えないことが原因である。 本報告は、国・行政の施策や市民による支援の取り組みに関する資料、および、報告者による参与観察と聞き取り調査によって得られた資料にもとづく。   3.  結果と考察 ①   政府は、避難を指示する区域を政治的判断で限定的に設定し、被曝線量が年1ミリシーベルト以上になる地域では除染を優先する方針を打ち出した。しかし、除染は計画通りに進まず、一度の除染作業では放射線量が十分には下がらない場所が生じている。この間、若年層の被曝リスクの回避を目的とした公的な施策は十分ではなく、低線量被曝は、不安感を抱く側の「心の問題」とされる傾向にある。 ②   保養に関する支援活動の現状は、1)被曝の低減、子どもの遊び支援に加えて、移住支援、健康診断、学習支援など多様化している。2)これらの支援活動は市民団体が主におこない、行政は、福島県内での活動には予算をつけるが、県外での活動への財政的支援には消極的である。3)2)の背景には、放射線被曝についての構造的問題があると考えられる。 ③   人と自然のかかわりの断絶は、人々の選択ではなく、原子力災害による被害として位置づける必要がある。また、保養支援は、「かかわり」の再構築につながる可能性があるだろう。   西﨑伸子「原発災害の「見えない被害」と支援活動」『東北発・災害復興学入門―巨大災害と向き合う、あなたへ』清水・下平・松岡編著, 山形大学出版会, 2013年9月出版予定

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