日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S0403
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発表要旨
津波被災マップと詳細DEMのGIS解析からみえてきた2011年東北地方太平洋沖地震の津波遡上高の地域性
*杉戸 信彦松多 信尚石黒 聡士内田 主税千田 良道鈴木 康弘
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抄録
1.はじめに
 ハザードの「地域性」は,災害を理解する鍵のひとつである.津波防災においては,遡上高に関する地点ごと・浦ごとの情報が,地域防災力向上に欠かせない.しかし,甚大被害をもたらした2011年東北地方太平洋沖地震でも,遡上高の空間的差異は十分には把握されてこなかった.
 今回の津波については,東北地方太平洋沖地震津波合同調査グループ(2011)や原口・岩松(2011)らによって直後から踏査が行われてきた.しかし,計測基準が踏査者で異なる,未踏査域がある,また必ずしも直後の踏査ではない等の問題を抱え,津波挙動の地域差をきちんと把握しきったデータとはいえない.津波浸水,そして甚大被害の「地域性」をきめ細かく理解しなければ,他の津波リスクのある土地も含め,津波防災は適切なものにはならない.
 著者らは,津波遡上高について広域を網羅した系統的かつ詳細な均質データを作成し,津波挙動の地域性と要因を検討すべく,1:25,000津波被災マップ(日本地理学会災害対応本部津波被災マップ作成チーム,2011)と国土地理院提供の地震後DEMのGIS解析を行ってきた.本発表ではその概要を,鈴木ほか(2013)に基づいて述べる.
2.方法
 1:25,000津波被災マップ(青森県中部~千葉県北部)は,福島県中南部を除き,国土地理院地震直後撮影の航空写真を実体視して作成されており,実体視判読に基づく唯一の津波浸水域データである(松多ほか,2012).福島県北部以北については,地震直後撮影航空写真のオルソ画像を基図として判読作業をコンパイルしており,紙地図に記入した場合に生じる誤差は回避されている(松多ほか,2012).実体視判読による津波浸水域認定の妥当性も確認されている(杉戸ほか,2012).国土地理院提供の地震後DEMは2 mまたは5 mメッシュであり,範囲は岩手県~福島県北部である.これらのデータをGIS上で重ねあわせ,津波が入った内陸側の限界ラインの標高を表示する「津波遡上高分布図」を,岩手県~福島県北部について作成した.
 作成に際しては,A.津波浸水ラインが海岸線と交わる場所は,標高が0 mと表示されるため,除外する,B.浸水ラインが急崖付近の場所は,浸水ラインが基部なのか斜面なのか判読がやや困難であるので,除外する,等の処理を行った.Bについては,翻って考えると,傾斜の緩い場所においては浸水ラインの位置の誤差は標高誤差をほとんど発生させないため,得られた標高値はDEM自体の有する標高誤差(数10 cm)とほぼ同等ということになる.
3.津波遡上高の地域性
 作成した「津波遡上高分布図」をみると,津波挙動の地域的差異が一目瞭然である.例えば気仙沼南方,大島の東側・西側は,数100 mしか離れていないにもかかわらず,東側では標高20 mを越えるのに対して西側では同10 mに達していない.前者は短い波長の津波が外洋から直接入って大きく遡上したのに対し,後者は南北に細長くのびる内湾に面するため,主に長い波長の津波によって浸水したと考えられる.気仙沼付近をみると,海岸部と内陸部で遡上高に大きな差異は認められず,また現地調査では2階まで浸水しながら流失を免れた家屋が認められた.よって,気仙沼湾の奥部においては,長い波長の津波が比較的ゆっくりした速度で流入したと考えられる.こうした分析は,家屋の多くが流出した激甚被災域の地域性を理解する鍵のひとつにもなる.今後さらに検討をすすめる予定である.
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© 2013 公益社団法人 日本地理学会
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