抄録
1. はじめに
総合研究開発機構(NIRA)では、2011年9月より東日本大震災の被災地の復旧・復興の状況の全体像を把握することを目的に、「東日本大震災復旧・復興インデックス」を作成している。それは被災地域において復旧・復興の取組が日々進むなか、その進捗状況や経済活動の状況について膨大な量の断片的な情報はあるものの、時系列に整理され、かつ包括的・横断的なデータによる把握が十分になされていないとの問題意識に基づくものである。国や地方公共団体が、限られた人員・財源を被災地の復旧・復興に効率的かつ戦略的に投入するためには、「科学的証拠に基づく政策立案(EBP)」を実行することが重要である。また被災した方々が、これからの生活設計を考えていくうえでも、自分の居住地域の復旧・復興の進捗状況を客観的に把握する必要があると考えられる。そこで、ミクロな情報と地方単位や全国の視点で語られるマクロな情報を融合するためのツールの提供を模索することとなった。そして震災前後の比較可能性にも留意し、基本的に既存の統計を活用した、地域の復旧・復興の進捗を表す「指数」を試行的に作成した。この作業を通して見えてきた課題、問題点は、今次の大震災のみならず、将来の甚大災害の発生時において、どのような客観的データの収集と分析をして、政策立案と実施につなげていくべきなのかに関する問題提起となっている。
2. NIRA東日本復旧・復興インデックス
本インデックスは、被災地での生活を支えるインフラの総合的な復旧度を示す「生活基盤の復旧状況」指数と、被災者や被災地域の生産・消費・雇用などの活動の回復度合いを示す「人々の活動状況」指数との、二つの合成指数からなるものである。前者は避難者数、仮設住宅入居率、医療施設数、瓦礫撤去率など17の関連指標を、後者は有効求職者数、鉱工業生産指数、大型小売店販売額など12の関連指標の数値を合成化した。刻々と変わる復旧・復興の状況を測るため、月次データを重視し、そのうえで可能な限り被災地(被災37市町村:岩手県12市町村、宮城県15市町村、福島県10市町村)のデータを県別に合成した(「生活基盤の復旧状況」では市町村別も作成)。両指数の動きは総じて、2011年秋までの急速な回復の後は、復旧・復興は進んでいるものの、大きくは進捗していない。
3. 包括的状況把握とデータ収集の問題点
今次の大震災のような甚大災害時には、トップダウンの政策判断が不可欠であり、分野・地域横断的なデータ収集と分析が不可欠だが、日本は「分散型」の統計機構をとっているため、そうした収集・分析に困難が多い。政府の公表統計のほか、地方自治体の業務統計、民間の保有する重要データを、災害時に迅速かつ一元的に集約し、利用する体制とルールづくりが課題である。データ活用にも課題はあり、復旧・復興の全体像を把握するため関連指標の合成化を行うと、分野ごとの詳細な分析が困難になる。地域横断的な状況把握を目指すと、局所的にしか作成されていないデータが利用できない。また、既存の統計では、平時のニーズの関係から、市町村別の月次データの公開が限定されており、復興の月次の推移を示そうとすると被災地以外の要素も含む県別データで代用せざるを得ない場面も多い。これらの課題の解決策について、議論が進むことが望まれる。
4. 被災者「個人」に着目したデータとの融合の可能性
被災者が生活再建をしていくうえでは、より「個人のくらし」の状況が分かるデータが重要である。既存の統計でも、個人レベルの「くらし」関連データはあるが、開示に大きな制約があり利用が困難である。また、災害発生後に各種の現地調査・意識調査などが実施されているが、成果の包括的情報集約がなく、被災地の復興に利用されにくい。今後は、地域レベルのデータと、「個人」のくらしの状況のデータを融合し活用することで、効率的・戦略的かつ被災者の視線に合った、復旧・復興が実現されると考えられる。