日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S0304
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発表要旨
原発避難者を取り巻く問題の構造
*佐藤 彰彦
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抄録
 本報告は、福島第一原発事故に伴い避難を余儀なくされた福島県富岡町の当事者団体が実施するタウンミーティング事業に注目し、そこを通してみえてくる避難住民と町行政、さらに、国・県の政策や世論の関係性のなかに潜む問題の構造について考察を試みるものである。<BR>
 「社会学広域避難研究会」では、2011年9月より原発避難問題に関する調査・研究を行ってきた。このうち「富岡班」では、これまで主に2つの取り組みに関わってきた。ひとつは「福島県富岡町から県内外の他地域へ避難している町民へのパネル調査」である。もうひとつは、震災前まで富岡町で生活をしておられた住民が当事者団体を結成し、2012年7月から全国各地で開催してきたタウンミーティング事業への運営支援である。「タウンミーティング事業」は、全国各地に避難されている富岡町民どうしが集まり、避難生活のなかで抱えている悩みや問題点などをお互いにはき出し、その積み上げ作業から見えてくる課題等を政治・行政に訴えていこうとする試みとも言えよう(※註)。これまで郡山、いわき、長岡、栃木、横浜、東京など全国各地で計8回開催されてきた(2013年3月末時点)。本報告ではこのタウンミーティング事業を取り上げる。<BR>
 タウンミーティング事業のひとつの特徴は「クローズド会議」にある。参加した町民が世代や属性ごとに分かれて議論を重ねる方式からは、従来型のワークショップや熟議では声にならないような<声>が上がってくる。<BR>
 こうした取り組み支援にかかわるなかで、主に次のことが明らかになってきた。①避難者が抱える問題は極めて広範かつ複雑であること、②しかしながら、こうした問題が政策の現場では正確に認識されているとは言い難い状況にあること、③そのため、現行の政策が必ずしも十分な被災者救済に繋がっていないこと、④一方で、<地域>再生と復興に向けた政治的決定が急速に進み、被災者が抱える問題は(政策的には<置き去り>のまま深刻化の一途を辿っていること、⑤その背後には地方自治を取り巻く我が国の法制度と、⑥問題の深刻化を後押しする世論の存在を否定できないこと。<BR>
 本報告では、タウンミーティング事業から上がってきた住民の<声>から、上記①~⑥の関係性を紐解く作業を通じ、原発避難者を取り巻く問題の構造について考察を試みたい。<BR>
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※註:ただし、「タウンミーティング」に参加される町民の想いは多様であり、参加主体の側からみれば、そこに参加する意義や目的もひとつに限定されるものではない点──例えば、同じ富岡町民に会うこと、悩みを話すこと、ただ興味があって参加したなど──に留意しなければならない。
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© 2013 公益社団法人 日本地理学会
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