抄録
【背景と目的】 冷温帯から亜寒帯を中心とする森林土壌からは,直径数mm程度の菌核が多量に検出されることがある。Sakagami(2011)は,岐阜県御嶽山および青森県岩木山を対象とした標高系列における菌核分布の調査の結果,菌核の分布は亜寒帯から冷温帯に適域を持つことを報告した。これらの菌核は外生菌根菌などが形成したものであり,その代表的な形成者として,温帯から寒帯まで広く分布する外生菌根菌であるCenococcum geophilumが挙げられる(Trappe 1964,Trappe 1969)。C. geophilumは,インドネシアにおけるメルクシマツ林管理に伴う殺菌剤の使用に対する反応についての報告もあり(Supriyanto, 2005),熱帯地域も含めて世界的に分布する。土壌中で形成される菌核について,Watanabe et al (2002)やSakagami(2009)は,酸性が強く交換性Al含量が高いほど,より粒径の大きなものが形成される傾向にあることを報告している。
沖縄島には,酸性土壌である国頭マージが北部を中心に,また,石灰岩や泥灰岩を母材とする島尻マージ,ジャーガルといったアルカリ性の土壌が南部を中心に分布している。本研究では,これらの土壌における菌核の分布を調査し,土壌性状との関係性を考察した。
【研究の方法】 沖縄島の赤黄色土(国頭マージ),暗赤色土(島尻マージ)および灰色台地土(ジャーガル)が分布するそれぞれの地域を対象として,計15点の表層土壌を採取した(図1)。採取した試料は風乾し,およそ10gの土壌を用いて菌核の含有量を調べた。また,土壌pH,交換性アルミニウム含量などの分析をおこなった。
【結果と考察】 調査土壌の概要と菌核含量,土壌pHおよび交換性Al含量を表1に示す。国頭マージあるいは島尻マージと考えられる12地点(YB1~5,NG1~7)のうち9地点において,土壌100gあたり0.09~34mgの菌核が検出された。pH(H2O)がアルカリ性を示した3地点(JG1~3)では,菌核は検出されなかった。 菌核が存在していた9地点のうち,赤色土壌であるYB3,NG5は強い酸性を示していたが,両者ともごく少量の菌核が検出されたのみであった。また,YB4も強い酸性を示したが菌核は検出されず,菌核の分布あるいはそれらの大きさと交換性Al含量との間には,関連性が認められなかった。比較的多数の菌核が検出されたYB5,NG7は,むしろpH(H2O)が6.0前後で,低い交換性Al含量を示した。一方,YB1とNG7を除く7地点は,主要植生がリュウキュウマツ,あるいはリュウキュウマツを含む林分であった。リュウキュウマツは外生菌根菌樹種であるため,菌核分布を決定する因子は植生であった可能性が高い。しかしながら,リュウキュウマツが存在しないYB1およびNG7でも菌核が検出されており,過去の植生情報や土地利用の変化履歴も踏まえて検討する必要があると考えられた。
本研究では,沖縄県の酸性土壌を中心とする複数地点で菌核の存在が確認できた。いずれも土壌有機物としての量的な寄与は非常に小さいが,有機物分解速度が比較的速い亜熱帯林において,菌核形成などの菌根菌の活動が土壌有機物特性に対してどのような寄与を持っているか,今後検討していく。