抄録
1.研究の目的と方法 本研究ではまず、大縮尺の官製地図が入手困難な地域として、ブラジル・アマゾンのマウエスを対象に、GIS・GPS・リモートセンシングデータを活用して、フィールドワークのためのベースマップを作製することを試みた。具体的には、ALOSデータから合成画像を作製し、それを用いた現地での聞取り調査によって、主な河川や支流の名称を記入した(図1)。また、SRTMデータから標高段彩図も作製した。 次に、マウエス郊外にある日系農場を対象に、現地踏査によって農場全体の土地利用図および母屋周辺の施設配置図を作製することを試みた。農場全体の現地踏査では、GPSとコンパスを携帯し、農地の角や牧柵の縁、独立樹などのところでウェイポイントを取得し、その周囲のどの方角に何があるのかをノートに記録していった。母屋周辺の現地踏査では、各建物の角や牧柵の縁・木戸、電柱などのところでウェイポイントを取得しながら、手書きの平面図を描いていった。そして、GIS上でウェイポイントデータを表示し、ノートに記録した情報や平面図を参照しながら、土地利用図と施設配置図を作製した。2.研究対象地域の概要 研究対象としたマウエスは、アマゾン川の中流域、ブラジルのアマゾナス州とパラ州の州境に位置する。アマゾナス州の州都マナウスからは、ハンモック船に揺られて約18時間のところにある(帰りはアマゾン川を遡上するので24時間かかる)。人口は52,236、人口密度は1.31人/km2である(2010年)。3.マウエス周辺地域の自然条件 熱帯に属するブラジル・アマゾンの1年は、降水量の多寡によって乾季と雨季に分けられ、河川の水位もそれによって大きく季節変動する。地形的には、現地でヴァルゼアと呼ばれる低地部(氾濫原)とテラフィルメと呼ばれる台地部に大別され、それぞれ異なる動植物相や水文・地質条件を有する。ヴァルゼアはさらに、年間通じて浸水している地域、雨季にのみ浸水する地域、雨季でも浸水しない地域に分けられ、多様な生態空間を形成している。マウエスの人々は、そのようなブラジル・アマゾンの多様な生態空間を季節によって巧みに利用しながら、日々の生業・生活を営んでいる。4.事例農場における土地利用 事例とした農場は、地形的にはテラフィルメにあたるププニャル河畔と、ヴァルゼアにあたるパラナウラリア河畔にそれぞれ位置し(図1)、肉牛の牧畜を中心とした農業が営まれている。雨季に浸水するヴァルゼアの農場では、乾季の間のみ牛を自然放牧し、雨季になるとテラフィルメの農場へ移動させている。年間通じて浸水しないテラフィルメの農場では、牛の放牧以外にも、焼畑によるガラナや自給用作物の栽培が行われている。