抄録
中国では,多くの海外出稼ぎ者や移住者を送出した地域を「僑郷」(華僑の故郷という意味)とよんでいる。報告者らは,中国の特定の地域から,なぜ多くの中国人が海外へ出て行ったのか,そのような僑郷はどのような地域性をもっているのかについて考察するために,中国で現地調査を行なってきた。今回の発表では,中国東北地方の新しい僑郷を取りあげる。海外在留の老華僑の主要な僑郷は,浙江省,福建省,広東省,海南省など中国南部に多く位置している。しかし,改革開放後,中国各地から海外へ出ていく者が増加した。このような中で,本研究の対象地域である黒龍江省の省都であるハルビン市に属する方正(ほうまさ)県は,数少ない「中国北方」の僑郷であり,在日新華僑の主要な僑郷の一つである。海外在留の方正県の華僑・華人は4.2万人,帰国華僑・親族が6.8万人にのぼり(方正県人民政府HP),特に日本との関係が密接である。 今回の私たちのグループ発表(1)~(3)では,方正県がいかにして在日新華僑の僑郷になっていったのか,また僑郷としての方正県の地域性について考察する。 現地調査は,2010年8月および2012年8~9月に実施し,方正県帰国華僑聯合会,日本語学校,中日友好園林(日本人公墓),旧満蒙開拓団の関連施設,方正県稲作博物館などで聞き取り,資料収集を行なった。また,在日新華僑の留守家族,中国残留日本人,日本からの帰国者などからも聞き取りを行ない,方正県中心部の土地利用調査などを実施した。さらに,日本に居住している方正県出身者からも聞き取り調査を行なった