日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 722
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発表要旨
換金作物栽培の導入による土地利用変化と世帯の生計戦略
タイ東北部の山地村落を事例として
*西野 貴裕
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抄録
 本研究では、近年になって換金用トウモロコシ栽培の導入と拡大が進むタイ東北部の山地村落を対象として、栽培導入の経緯を確認したうえで、1976年から2012年にかけての村域内での耕地拡大過程を示す。さらに世帯ごとの作付け規模や、具体的な土地利用の変化を世帯経済状況と合わせて示すことによって、世帯の生計戦略の特徴を明らかにすることを目的とする。 1976年および2003年に撮影された空中写真を判読することによって当時の耕地分布図を作成した。また、GPSを用いて全世帯分の耕地を1筆ごとに踏査することによって、2012年の耕地分布図を作成した。これらを用いることによって、村域内における耕地の拡大過程を明らかにすることができる。また、空中写真から家屋を判読することで、家屋数の推移も推定した。さらにGPSを用いた踏査の際に、耕地ごとの過去数年間の作付け履歴の聞き取りを行うことによって、耕作・休閑サイクルの把握も試みた。また、村の世帯を一戸ごとに訪問し聞き取り調査を実施することで世帯経済に関するデータを収集した。データの内容は、農業経営に関わる収支状況、農外活動による収入状況などである。以上のように、地理情報学的な手法と現地での踏査・聞き取りを組み合わせる研究手法を用いた。 調査村への換金用トウモロコシ栽培の導入と拡大の直接的な要因となったのは、2008年から収穫後のトウモロコシを村の集落まで買い付けに来る仲買人が登場してきたこと、また、その年代にトウモロコシの生産者価格が上昇傾向であったことも村人が換金用トウモロコシ栽培に乗り出すための動機として働いたことがわかった。また、トラクターなどの農業機械や除草剤、化学肥料などの新たな農業技術の普及も、栽培の導入と拡大を後押しした。トウモロコシ栽培を拡大するために、休閑地のほぼすべてを耕地として拓くことによる焼畑から常畑への移行がみられた。農業経営の拡大を支えているのは、出稼ぎ者からの仕送りによるところが大きかった。 
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