ネパールのテライ低地にあるナワルパラシ郡では、地下水のヒ素汚染が深刻な問題になっており、筆者らは一連の調査を行っている。ヒ素汚染の原因としては、地下の帯水層の深さ・地質構造などが大きく影響していると推測される。ヒ素の濃集メカニズムを、現在の地形形成プロセスから考えるため、地形の分類を行った。ヒ素汚染の調査地域は、テライ低地のNawalparasi郡Parasi東方の水田地帯である。本研究は、ヒ素汚染地域北方に連なる山地から流下する河川流域全体を対象とした。今回の研究は机上調査のみで、ネパールSurvey Departmentが1993年に発行した1/25000地形図と、その測量のために1990年に撮影した1/50000空中写真を使った。地形図(等高線間隔10m、補助曲線間隔5m)から作成した地形断面図(第1図)によると、本地域は地形的に、山地、山麓緩斜面、平地に分類できる。ここの山地は、広くはシワリク丘陵、ネパールではチュリア丘陵とよばれるヒマラヤ前衛の山地で、平地とは衝上断層によって区切られている。断面図では、平野とは勾配が著しく、急激に異なっていることがわかる。山麓斜面は土石流によって形成された沖積錐によって構成されている。空中写真では山地上方の崩壊地から続く土石流跡が多くみられる。平地は扇状地および蛇行原から構成されている。しかし、河川は穿入蛇行し、平地全体が段丘化している。この地域の沖積錐や扇状地は日本で見られるものより勾配が緩い。これは堆積物の粒径が小さいためではないかと考えられる。その原因として背後の山地が第三系の砂岩・泥岩で構成されており、生産される土砂がboulderサイズから、急激にsand・siltサイズに変わるためではないかと考えられる。このことはヒ素が検出される砂層の帯水層形成にも影響を与えている可能性がある。