日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P058
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発表要旨
紀伊半島における河川の水質と表層環境との関連性
*山田 誠浜崎 健児熊木 雅代高村 仁知高田 将志和田 恵次
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抄録

紀伊半島は、2011年の台風12号による甚大な豪雨災害に見られるように、数年に一度は台風が通過し被害をもたらすような地域である。また、日本でも有数の多雨地域である大台ケ原を含む紀伊半島中部と南部は、年間を通して非常に多くの雨が降り、年間降水量は4000mm以上にも達する。このように、非常に多くの降水が供給され、それらが河川を通じて海に排出されている活発な水循環の場であるにもかかわらず、紀伊半島の水に関する研究、特に河川水の水質に関する学術的な研究例はあまり多くない。さらに、紀伊半島は、人口密集地や農地を多く含む北部地域から、流域のほとんどが森林で形成される南部地域まで、人為的な影響を含めた多種多様な陸域の環境を有しており、水質を形成する環境としてはバリエーション豊かな地域である。我々はこのような様々な環境を有する地域で、河川水の溶存物質の量に表層環境がどのような影響を与えているのかについて明らかにするために、河川水の化学分析を行い、成分組成と陸域表層環境データとの関連性を解析した。試料の採取は2012年4月から6月にかけて紀伊半島西部から南部の17河川で行い、主要溶存化学成分の分析を行った。陸域表層環境の抽出にはArcGIS10(ESRI社)を用いた。解析には土地利用細分メッシュ(100mメッシュ)(国土交通省)・数値標高モデル10mメッシュ(標高)(国土地理院)・アメダスデータ(気象庁)を用いた。また、水質調査した河川のうち8河川について、和歌山県県土整備部河川・下水道局河川課が所有する流量データを解析に用いた。紀伊半島の河川水質の分布に次の特徴がみられた。(1) 河川水質は地域ごとに3つのパターンに分類される。(2) 南部の河川水の重炭酸濃度は著しく低く、それに伴って岩石由来の化学成分濃度も低くなっている。流量データが得られた河川の流域で、河川水に対する単位面積あたりの重炭酸供給量を見積もった。南部地域の重炭酸供給量は他の地域よりも少なく、この地域は河川水に炭酸成分を供給しにくい地域であることが示唆された。一方、全調査対象河川の重炭酸濃度と表層環境との間には、流域平均年間降水量、流域平均傾斜および森林面積割合に強い負の相関関係があることが明らかとなった。重炭酸濃度が低い南部の流域は単位面積当たりの重炭酸供給量が少ないことから、紀伊半島南部の流域では、降水量・傾斜・森林割合が陸域の水に対する重炭酸供給量に影響をあたえ、河川水の溶存成分の低濃度化を引き起こしていることが示唆された。現在、北・中部地域や栄養塩等の人為由来の化学成分についても、流域の流出量と表層環境との関係の解析を行っている。発表ではこれらを総合して、紀伊半島の表層環境が流域の水と物質の循環に与える影響について議論する。

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© 2013 公益社団法人 日本地理学会
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