日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P078
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発表要旨
MRI-AGCM3.2Hを用いた8月の日本における極端高温時の気圧配置の将来変化
*坂井 大作高橋 洋松本 淳水田 亮
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抄録
1. はじめに 太平洋高気圧は日本の極端高温を引き起こす要因であることが多い。しかし、日々の極端気温においては太平洋高気圧が強い気圧配置だとは限らない。日単位の極端高温をもたらす気圧配置のパターンが複数存在するということである。その温暖化に伴う変化に関しての研究はほとんど研究されていない。 本研究では温暖化に伴う、8月の日本における極端高温発生時の気圧配置のパターンと、その頻度の将来変化を解析した。2. 使用データ 気象庁気象研究所で開発された大気大循環モデルMRI-AGCM3.2H(Mizuta et al. 2011)のシミュレーション(1872~2099年)によって得られたデータの中で、8月の日平均の地上気温、地上気圧を用いた。モデルの格子点間隔は60kmである。境界条件に関しては、再現気候としての1872~2005年は英国ハドレーセンターによる年々変動のある海面水温の観測データ(HadISST、Rayner et al. 2003)を、将来気候としての2006~2099年は観測データをベースに、SRESのA1Bシナリオに基づくCMIP3マルチモデル平均の昇温量を上乗せした海面水温を用いた。シミュレーションは大気の初期条件のみをわずかに変えたアンサンブルランを4メンバー行なっている。 解析に用いた期間は1979~2003年(以後「現在実験」と呼ぶ)と2075~2099年(以後「将来実験」と呼ぶ)の各25年間である。よって、各期間31日×25年×4メンバー=3100日存在する。MRI-AGCM3.2Hの結果の妥当性をみるため、JRA-25(Onogi et al. 2005)長期再解析データを1979~2003年に関して解析した。3. 解析方法 現在実験・将来実験のそれぞれにおいて、気圧配置を客観的に分けるために20°~60°N、120°~160°Eの領域で地上気圧のEOF解析を行なった。日本を南北2領域に分け(「北日本(東北・北海道)」「南日本(「北日本」と沖縄・奄美以外の領域」)、各領域において日平均気温が上位10%(現在実験・将来実験は各310日、JRA-25は77日)に入った日について、EOFの各モードにおいて時間係数が1標準偏差を超えた(そのモードが支配的であるとみなせる)時の地上気圧のコンポジットをとった。4. 結果 結果の一例として、EOFの第1モードと第2モードにおける、南日本極端高温時の結果を示す。第1モードでは日本の北を中心とした、第2モードでは日本の南を中心とした気圧変動である。南日本の極端高温において、EOF第1モードで時間係数が-1標準偏差以下の場合、太平洋高気圧の張り出しが弱く、日本の北に強い低気圧があるパターンとなった(図1左)。現在実験でのこの日数は71日(極端高温全体の約23%)を占めている。なお、JRA-25では17日(約22%)であった。EOF第2モードで時間係数が-1標準偏差以下の場合、南海上に熱帯低気圧があるパターンとなった(図1右)。現在実験においての日数は38日(約12%)であった。一方、JRA-25では3日(約4%)であった。 このように、太平洋高気圧の勢力が強くなくても、その周辺で熱帯低気圧や大陸に強い低気圧が存在している場合に極端高温となるケースが多い。また、将来実験ではEOF第1モードの-1標準偏差以下の場合では高気圧・低気圧の勢力、日数に大きな変化はなかったが、EOF第2モードの-1標準偏差以下の場合では太平洋高気圧は弱化し、熱帯低気圧の領域が東にシフトしていた。また、日数は55日(極端高温全体の約18%)に増加している。
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