抄録
研究の背景と目的: セイロンベンケイ(kalanchoe pinnata)は,ベンケイソウ科リュウキュウベンケイ属の多年草である.原産地はマダガスカル島といわれているが,現在では熱帯地域や亜熱帯地域に広くみられる.園芸植物として導入されたものが,各地域で帰化して分布を拡大した.特にハワイ諸島や小笠原諸島などの海洋島では,在来種の生育を阻害することが懸念されている(図1).しかし南西諸島では,こうした外来種の問題は現時点で起こっておらず,セイロンベンケイの分布や生態についても不明な点が多い.本報告では,南西諸島におけるセイロンベンケイの生育地の分布特性を検討した.調査地と方法: 調査地は,南西諸島の中でもセイロンベンケイが多くみられる沖縄島の本部半島を選定した.広域的な生育地の分布調査と,生育地の日照条件と土壌条件の立地環境調査,生育地内におけるセイロンベンケイの優占度の調査を行った.結果と考察: 本部半島におけるセイロンベンケイの生育地の分布は,琉球石灰岩(第四紀)地域と古期石灰岩(中・古生代)地域で二つのタイプに分けられた.琉球石灰岩地域では,海岸付近の岩礁や道路法面の開放地に分布していた.生育地内の優占度は44.0%~96.3%であり,その中でも道路法面にみられる生育地の優占度が高かった(図2).道路法面では土層がほとんどなく,日照時間600分/day以上の環境下で生育地が多く分布していた.地質ごとにみると,琉球石灰岩地域の方が生育地内の優占度が高い.古期石灰岩地域でも,自然の露岩地や道路法面の開放地に分布していた.生育地内の優占度は12.1%~63.2%であり,比較的日照時間が長い道路法面で優占度が高かった. このように本部半島におけるセイロンベンケイの生育地の分布は,人為的に改変された道路法面で最も多く,自然の中では少なかった.そのため,全体的に森林で覆われている本部半島においては,人為的改変が無かったとしたなら,セイロンベンケイの分布は非常に少ない.自然の状態でも裸地が多いハワイ諸島や小笠原諸島などの海洋島とは異なるため,それほど分布が拡大していない.今後としても,セイロンベンケイの分布が拡大する可能性は低いと考えられる.