日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S0201
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発表要旨
東京大都市圏における住宅取得行動の変化
*久保 倫子
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抄録

1.研究の背景:居住地域構造の変化と住宅供給 日本では私鉄資本による沿線開発や大手不動産資本による大規模住宅地開発が行われたことにより、1960年代から70年代に都市の郊外化が加速度的に進行した。都市郊外では、鉄道網の整備によって都心への通勤者の郊外居住が加速し、非大都市圏出身者の住宅購入が郊外化と密接に結びついていることが明らかにされた(川口 1997;谷1997)。1990年代後半以降になると、人口の都心回帰傾向が指摘されるようになった。この要因は、工場・商業施設・大型レジャー施設等の跡地利用や各都市の駅周辺での再開発事業のためにマンション開発が盛んに行われたこと(不動産経済研究所2002)、地価の下落によるマンション供給と行政主導の公共住宅供給により人口増加が引き起こされたことなどである(矢部2003)。この現象にともなう住民構成の変化に着目した研究から、1990年代後半に多様な住宅供給がなされた東京都心部で居住者の量的・質的変化がおこり、都市空間の再編成がおこっていると指摘されている(宮澤・阿部2005)。都市中心部においてマンション供給が増加する一方で、郊外住宅地の多くは、開発から数十年が経過し居住者の加齢にともなう地区全体の高齢化や持続性の危機などの問題に直面しつつある。2.研究課題東京大都市圏における居住地域構造が大きく変容している現在、その実態を明らかにする上では、住宅の供給的側面や居住者の住宅取得行動の分析が有効であると考えられる。しかしながら、複雑に入り組んだ住宅市場において全てのサブマーケットに焦点をあてる事はデータの制約などの問題もあり大変困難である。そのため、本研究では1990年代後半以降の住宅供給において重要な役割を占めるマンションの供給的側面と居住者の住宅取得行動を扱うこととする。東京大都市圏におけるマンション供給の変化を示した後、その要因について専攻研究等や事例研究をもとに検討する。これらを踏まえて、東京大都市圏における都市居住地域構造の変容と住宅・居住との関係を考察する。3.東京大都市圏におけるマンション供給と住宅取得行動東京大都市圏においては、多様なマンション供給がなされてきたが、1990年代後半以降は、都心部でのコンパクトマンションの供給、湾岸部を中心に超高層マンションの供給などが顕著であった(久保・由井2011)。大都市近郊においても、核家族世帯にむけたマンション供給などが継続してきた(久保2010)。世帯構成やライフスタイルの多様化が進み、また大都市圏において生まれ育った世代が住宅購入の年齢に達するようになったことにより、必ずしも郊外の戸建住宅が理想的とはみなされなくなり、郊外化の時代のような等質的な住宅取得行動がみられなくなっている。文献川口太郎 1997.郊外世帯の居住移動に関する分析―埼玉県  川越市における事例-.地理学評論70A: 108-118. 久保倫子 2010.幕張ベイタウンにおけるマンション購入世帯の現住地選択に関する意思決定過程.人文地理 62:1-19.久保倫子・由井義通 2011.東京都心部におけるマンション供 給の多様化-コンパクトマンションの供給戦略に着目して -.地理学評論 84:460-472.谷 謙二 1997.大都市郊外住民の居住経歴に関する分析-高蔵寺ニュータウン戸建住宅居住者の事例-.地理学評論 70A:263-286.不動産経済研究所 2002.『全国マンション市場動向2002年実績・展望』不動産経済研究所.宮澤 仁・阿部 隆 2005.1990年代後半の東京都心部における人口回復と住民構成の変化-国勢調査小地域集計結果の分析から-.地理学評論 78:893-912.矢部直人 2003.1990年代後半の東京都心における人口回帰現象-港区における住民アンケート調査の分析を中心にして-.人文地理 55:277-292.

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