日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 231
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発表要旨
浅間火山・鬼押出し溶岩上の植生分布とその規定要因
*福地 慶大
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抄録
1.はじめに 鬼押出し溶岩は,1783年の天明噴火の際,噴火活動の末期に流出した溶岩流で,浅間火山の北斜面に分布した(荒牧1968).一般に火山植生の研究では,植生遷移という時系列で理解されることが多かった.近年では,有珠山,三宅島,桜島などで,特定の環境条件(溶岩のタイプなど)と火山植生との対応に関する研究が行われている.浅間火山でも,噴火後の植生分布,遷移系列などの研究はみられるが,噴火によって形成された地形・地質などと植生分布の関係について議論した研究はあまりみられない.浅間火山天明噴火の火山噴出物は溶岩流の他に,降下軽石,火砕流,土石なだれがある.これまで,これらの噴出物の違いにより,植生が異なることが報告されている(Yoshioka 1974,小泉2007).さらに詳しく見ると,同一の溶岩上でも植生が異なることが認められる.今までこのような細かな違いは,研究されてこなかった.そこで,本研究では,異なる噴出物による植生の差異ではなく,鬼押出し溶岩の同一の溶岩上の植生の違いについて議論する.2.研究方法 浅間火山の天明噴火で流出した鬼押出し溶岩上の植生分布の違いに着目し,分布の規定要因を地形・地質・土壌など複合的な視点から,明らかにした.まず2010年撮影(国土地理院撮影,縮尺1万分の1)の空中写真を用いて,相観植生図と地表面区分図を作成し,さらに現地調査により修正を加えた.また,植生区分ごとに植生調査,溶岩の表面形態区分,表層土壌の水分含有率,土壌断面,土壌粒径の調査を行った.3.結果 植生調査の結果から,同一溶岩上でも6つの植生区分がみられ,さらに同じ高度帯であっても植生が異なるところがありモザイク状の構造をしていることが明らかになった. 鬼押出し溶岩上の地表面は,砂礫に覆われた砂礫地,溶岩が露出した溶岩地の2つに区分された.溶岩流の上~中流域では中央部に砂礫地,両端に溶岩地がみられ,下流域に,ブロック状の溶岩と溶岩の亀裂・しわがみられた. 砂礫地の表層堆積物は主に岩片や火山砂からなり,厚く堆積していることがわかった.また,土壌の粒径分布には偏りがあった.そのため表層は不安定で乾燥傾向になっているため,コメススキやミネヤナギなどが生育していた.溶岩地では,表層には火山砂が薄く堆積し,溶岩地の起伏の影響を受けて,堆積物の厚さに差が見られた.ここでは土壌粒径分布が良い場所が多い.そのため,表層が安定する湿潤な環境が形成されている.4.考察 鬼押出し溶岩上の微地形や表層構造は,場所によって異なり,地表面の性質に違いがみられる.表層堆積物は,砂礫地上では表層が不安定で乾燥傾向であるため,これらに耐性のある植物が生育すると考えられる.一方,溶岩地では表層が安定し湿潤であるため,植物の出現数が多くなると考えられる.よって,砂礫地に比べ溶岩地の出現数が多いのは,表層堆積物の違いが原因の一つであると考えられる. 以上ことから,鬼押出し溶岩上の植生分布を規定する要因は,微地形,表層構造,表層堆積物の違いである.
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© 2013 公益社団法人 日本地理学会
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