抄録
【はじめに】「東日本大震災による被災地の再建にかかわる研究グループ(被災地再建研究グループ)」では、「復興計画」で中核の一つである復興公営住宅に注目し、「復興公営住宅班」を編成して共同研究を行っている。復興公営住宅への入居希望者の大半は、津波で自宅が全壊した人々であり、彼らは応急仮設住宅等で現在暮らしている。復興公営住宅の建設によって、暮らしやすい「住まい」と「まち」が実現するためには、入居予定者である「仮設住宅住民」の実態をパーソナル・スケールからローカル・スケールで様々に把握し、その実態に配慮する形で復興公営住宅の構造や立地、周辺地域との調和を図るべきであろう。特に、復興公営住宅への入居希望者は自力再建が難しい「高齢者」が多いことが十二分に想定できることから、仮設住宅住民の現在の体力的な状態、心理的な健康、日常生活での行動やその空間等について把握した上で、数年、十年、数十年後を見据えた社会福祉の充実化等を検討する必要もあるはずだ。また、仮設住宅の生活環境や住民の健康等の実態を「実証的なデータ」を用いて解明することは、現状での仮設住宅の不便な造りや仮設住宅住民それぞれの好ましくない生活習慣等の改善にもつながり、かつ今後も他地域で起こり得る災害後に建築・供給される仮設住宅のあり方とその地域の気候に応じた快適性等を考える上でも貴重な記録となり得る。【シンポジウムの流れを受けて】本シンポジウムのテーマを「仮設住宅」に特化した理由としては、冒頭での豊島らによる「趣旨説明」でも説明されたように、「岩手県および宮古市での復興過程」において「仮設住宅での生活が今後少なくとも3年以上継続するだろう」ことが決め手の一つであった。仮設住宅に係る共同研究を現段階でまとめることによって、今後も継続する「仮設住宅での生活」での改善点も見出すことができるだろう。そこで、調査対象地域の宮古市での仮設住宅等への「生活支援」や仮設住宅住民による「自主的な活動」についての経緯を把握するために、宮古市社会福祉協議会の葛事務局長と宮古市和美・西公園仮設団地自治会の中村会長に「現場の情報」を提供して頂いた。そして、①高橋らによる「仮設住宅室内における温湿度環境(気候)」、②白井らによる「仮設住宅住民の日常生活における身体活動(体力)」、③松本らによる「仮設住宅住民の心理的健康と個別的経験(心理)」、④関根らによる「仮設住宅住民の行動と生活空間(行動)」の順に、共同研究でのそれぞれの担当に係る発表が行われた。本発表では、シンポジウム全体の流れを受けつつ、①~④の「異分野(担当)」の研究それぞれの関連について総合的に考察し、気候・体力・心理・行動についてパーソナル・スケールでの地理的な現象を相互に結び付けたい。また、宮古市市街地を中心とした「宮古地区」の8つの仮設団地で調査を実施していることから、特に行動と生活空間についてはパーソナル・スケールでの現象の重なりを幾重にも確認でき、市街地を中心としたローカル・スケールでの地理学的事象との対応についても考察できる。【個人情報を尊重】仮設住宅住民に係る調査をパーソナル・スケールで進める場合、仮設団地の全住民それぞれについて、年齢、性別、被災前居住地、移動手段等の個人情報があることが望ましい。これらは、個人情報保護法によって行政からは当然入手できない。発表者は、地元の協力者とともに調査対象の仮設団地に幾度も通い、住民との信頼関係を築きながらこれらの情報を個人が特定されない形で入手できた。当日は、仮設住宅住民の属性との関連も含めて「仮設住宅」について総合的・実証的に考察したい。 なお、本研究は、公益財団法人 トヨタ財団 「2012年度研究助成プログラム東日本大震災対応『特定課題』政策提言助成」の対象プロジェクト「復興公営住宅の住まいづくりとそれを取り巻くまちづくりへの提言(D12-EA-1017)」の一部である。