日本地理学会発表要旨集
2013年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 305
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発表要旨
フランス首都圏地域における地域政策の新展開と政府間関係
*岡部 遊志
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抄録
1,はじめに
 フランスの国土政策は,長きにわたりフランスの首都圏地域,すなわちパリ地域からの富の分散を,主要な政策の要素としてきた.しかし近年,フランスの競争力の低下が懸念されるに伴って,パリ周辺地域も国土政策や地域政策の対象となっている.
 本発表では,現地調査などに基づき,パリを擁するイル・ド・フランス地域圏におけるクラスター政策を中心とした地域政策の新展開と,それに関連する政府間関係について発表する.

2,イル・ド・フランス地域圏の概要と課題
 フランスの国土政策には,国土の均衡ある発展を目指すという思想が根底にはあり,1960年代に工場の立地規制や研究機関の域外移転が行われるなど,イル・ド・フランス地域圏は常に分散政策の対象となってきた.しかし2000年代,グローバル化の進展に伴い,イル・ド・フランス地域圏はフランスにおいて国際的な競争力を発揮できる唯一の地域としてみなされている.
 イル・ド・フランス地域圏は人口や経済活動がフランスの他の都市に比べ大きく卓越し,競争力に関して高いポテンシャルを持った地域である.現在,工場の閉鎖や海外移転などの影響で,競争力は低下しているといわれているが,パリの南西部に企業の本社や研究開発機能,大学,研究機関などが集積し,R&D拠点としての重要性が増加している.
 しかし,首都圏地域としての問題点も挙げられる.1つは過大さの弊害であり,情報の多さゆえに人とのネットワークの構築や情報への適切なアクセスが難しくなっている.2つ目は交通体系,居住空間などインフラ面の問題で,競争力が十分に発揮されていないとされる.そして,こうした問題に対応するために各主体が地域政策を行っている.なお,フランスで地域政策を担うのは,制度上は地域圏であるが,イル・ド・フランス地域圏では,首都圏地域の整備を行うために中央政府がグラン・パリという新たな枠組みを作るなど,中央政府が積極的に関わってきている.

3,イル・ド・フランス地域圏におけるクラスター政策
 近年注目される地域政策はフランス版クラスター政策の「競争力の極」政策である.イル・ド・フランス地域圏には「競争力の極」が複数(表)ありフランスにおいても最大である.
 その中でもシステマティックSystem@ticはフランスにおいて代表的なクラスターである.この極はICT分野の「競争力の極」であり,フランスを代表する大企業が参加している.この極の予算では,中央政府が負担する割合が大きくなっているが,自治体も重要な割合を占め,そうした多様な主体からの予算負担により,特許や研究においてもフランスの中でも大きな地位を占める.
 イル・ド・フランス地域圏,特にパリ周辺地域では主体同士のネットワーキングが情報の過剰と首都地域における過密により困難であったが,中央政府と地方自治体が共同で行う「競争力の極」政策によって,主体同士のネットワーキングがコーディネートされ,競争力を発揮する基盤の強化が行われてきている.
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© 2013 公益社団法人 日本地理学会
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