抄録
1.はじめに
地方分権改革や平成の大合併によって,都道府県の役割が問い直されている.法律上,都道府県と市町村の関係は対等となり,合併により市町村の性格が変われば都道府県との間の役割分担も変わると考えられる.しかし,実際にどのような変化が生じているのかに関しては,十分に把握されているとは言い難い.都道府県そのものの変化は見えにくいが,都道府県の出先機関については,分権改革や平成の大合併の時期に多くの都道府県で制度改革が行われている.本発表では,山梨県における出先機関の再編を分析する作業を通して,市町村に対する都道府県の役割の変化を考察する.
なお,都道府県の出先機関とは,税務事務所,保健所,農務事務所,土木事務所など,都道府県の事務を地域的に分掌する機関を指すが,本発表では,これらを本庁の各部・課それぞれが主管している体制を個別出先機関体制,これら分野の異なる出先事務所を地域ごとに束ねる機関が置かれている体制を総合出先機関体制と呼ぶことにする.
2.山梨県出先機関の再編
山梨県では,「地域の課題の地域における解決」と「地域行政の総合調整機能の強化」を主な目的として, 2001年に個別出先機関を地域ごとに統合する総合出先機関「地域振興局」が設置された.それまでの個別出先機関は地域振興局の「部」として位置づけられた.しかし市町村合併の進展に対応するなどの理由により,2006年をもって地域振興局は廃止され,個別出先機関体制へと戻った.企画・県民生活部門の出先機関については総合窓口機能のみとなり,市町村支援機能をはじめとする企画調整機能は本庁に集約された.
3.研究方法
市町村が山梨県出先機関の再編に対してどのような期待を持ち,どのように評価をしているのかを明らかにするために,2012年10月から11月にかけて山梨県全27市町村の首長および総務担当者を対象にアンケートを実施し,首長から14,総務担当者から20の有効回答を得た.またアンケート回答者の一部に対してインタビュー調査を行った.
4.結果と考察
山梨県は地域振興局設置の主目的として,「広域行政への対応」と「地域の総合調整機能の強化」を挙げていたにもかかわらず,アンケートでは,こうした点で地域振興局に期待する回答はわずかしか見られなかった.地域振興局に期待されていた役割は,町村にとっては,行政運営に対する指導や支援であり,県の支援をあまり必要としていない市にとっては,許認可や補助金関係の手続きにかかる時間コストの短縮であった.このことから,山梨県が地域振興局を廃止した主な原因は,市町村合併が広域行政における県の役割を低下させたことにあるのではなく,合併によって県の支援を必要とする町村が減ったことにある,と言える.
したがって,山梨県出先機関の再編から読み取れる,市町村に対する都道府県の役割の最大の変化は,行政運営に対して指導・支援を行う役割が縮小していることであると結論付けられる.そのため,都道府県が今後その存在意義を主張し続けるとすれば,市町村に対してより高度な指導・支援ができるよう組織の専門性を強化するか,あるいは別の役割に自身の存在意義を見出す必要があるだろう.