抄録
1.はじめに
日本ではさまざまな自然災害が頻発しており,とくに東日本大震災以降,被災地での復旧・復興への対応,防災・減災への対策への学術的関心が高まっている.被災地域へのアプローチは学問分野によっても大きく異なるが,未曽有の大災害であった東日本大震災では、自然地理学,人文地理学の両面に加え,他の学問分野とも連携しながら被災地域の対応に当たっている. こうした中,過去の災害事例から、今後起こりうる問題を抽出することや,現在起きている災害の経験を記録することは,連続して災害が発生する日本において極めて重要である.すなわち,過去に災害を経験することで得た経験(「災害知」とする)を現在の災害に活かす,現在の災害で得た災害知をこれから起こる災害に活かすことが求められている.また、さまざまな取り組みが被災地域で展開される中、全体像が見えにくい状況にあり,これらを統一的に把握できる方法論が必要である. このための手法として,地域全体の状況を把握することのできる地誌学的な視点を援用することを考えた.本研究は,被災から復興までの地域変化を示す代表的な事象について重層的にとらえ,復旧・復興の進捗状況や地域差を把握し,得られた教訓を時系列に整理することを目的としている.これにより,段階に応じた施策の展開が期待できる.また,この変化のモデル化を試みる.本発表では被災から復興までの地域の変化を時系列で整理することを試みる. 2.時系列区分の手法 本研究では,さまざまな種類の災害について被災から復興までに出現する事象の時系列変化を表にまとめた.具体的には原子力災害,地震災害,津波災害,水害,土砂災害,竜巻災害を取り上げた.このほかに地域に甚大な影響を及ぼす公害を加えた.公害については,有機水銀汚染を念頭に置いている. これらは,その影響が及ぶ範囲や被災から復興までに要する時間がそれぞれ異なる.また,出現する事象は被災地域一様に出現するものではなく,被災地域のスケール,その進捗状況によって出現頻度やその時期が異なってくる.しかしながら,本発表ではモデル化への試みのため,時空間スケールをあえて考慮せず,被災から復興まで,被災地で起きた事象を整理し,その発生した時系列の順番のみで整理した.
3.時系列区分の結果 さまざまな災害・公害による被災地域の変化を時系列で区分した結果,0から4までのステージに大別し,それぞれをチャプターに細分した.ステージ0は発災,1は初期対応,2は復旧過程,3は復興過程,4はその後の課題への取組として整理した.
被災地域での対応では,復旧・復興計画の策定と実行,そして災害経験の継承が段階を追って進んでいく.それとリンクしながら,人間生活も本来の日常生活を取り戻すプロセスが想定された.注意すべき点は,被災地域は一様ではないということである.地域内に存在する復興段階の差異について本区分を基に認識することで,被災地域の状況を的確に把握することができる.そこから更なる災害知の蓄積につながり,段階に応じた適切な施策や災害対応を検討できるようになる.