日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S0103
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発表要旨
平成の大合併の帰趨と将来の市町村の姿
*森川 洋
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抄録
  わが国財政の悪化とともに,地方圏では人口減少による小規模町村が増加し,増え続ける行政サービスに対応困難な町村が増えていた。そこで政府は,広域連合導入の翌1995年には市町村合併の方針を進め,1999年に各都道府県に合併推進要綱の策定を要請した。
しかし,これに対する都道府県の対応は一様ではなく,福島県,長野県,兵庫県のように合併の基本パターンを提示しない県もあり,合併特別交付金の支給にも大きな差異があった。基本パターンの作成に用いたクラスター分析の結果は広域行政圏を分割したものが多かったが,非合併市町村も含まれるし,市町村規模が比較的大きく,ライバル関係を無視して同一圏域に2つ以上の都市を含む場合もあり,基本パターンと整合した合併はせいぜい30%以下であった。
合併推進要綱の策定以前から合併準備を進めていた県もあったが,合併協議が本格的に始まったのは策定後であった。「平成の大合併」で合併が進捗しなかったのは,周知のように,財政力の豊かな大都市圏市町村である。「平成の大合併」は「昭和の大合併」に比べると日常生活圏も著しく拡大しており,国家的集落システムのいかなる位置にあるかが合併形態に影響することになった。日常生活圏との整合のための分村合併は上九一色村以外にはなく,飛地合併も多く現れた。
市町村合併を①合併市町村,②協議会離脱や解散による非合併市町村,③協議会不参加による非合併市町村に区分すると,②が多いタイプには奈良県,沖縄県,北海道,山形県が属し,③が多いのは東京都,神奈川県,大阪府となる。人口が少なく財政の厳しい小規模町村では「順調合併」が多いが,なかには合併しても周辺部に置かれるのを嫌がり,非合併にとどまる町村もあった。
合併への影響要因には,財政状況以外にも新庁舎の位置,新市町村名,庁舎の方式などがあるが,住民投票や住民アンケートを重視した場合もある。発電所立地町村や観光地とか,産業の発展や伝統文化の維持に力を尽くしてきた町村には非合併が多い。長野県の広域連合は阻止要因として作用したが,その他の県ではそれほど問題にはならなかった。日常生活圏との関係を完全に無視した例は少ないが,通勤圏よりも旧郡域とのつながりを重視した合併もみられた。
合併の効果や影響については行政や企業サイドと住民サイドでは大きく異なり,住民サイドでは「周辺部が寂れる」などマイナスの評価が高い。政府の合併目標は1,000であったが,実際の合併は1,727にとどまり,そのなかには人口1万人未満の小規模町村482(27.9%,2010年)が含まれる。第24次地方制度調査会(1994年)では「平成の大合併」による地域格差の是正を目標としたが,大都市圏の市町村の多くが非合併にとどまり,合併による人口規模の拡大のなかにあって,小規模町村が残存するので地域格差の是正にはならなかった。
小規模町村の中には舟橋村(富山県)のように有利な位置にあるものもあるが,多くは「合併への制約が大きい地域」にある町村である。「平成の大合併」出発時には政府は広域連合の設置を強く拒んでいたが,第29次地方制度調査会(2009年)では市町村の広域連携を示唆し,西尾私案のような強制的手段によることなく,都道府県を含めた広域連合の構築が考えられている。フランスの市町村連合体だけでなく,ドイツの市町村連合のようにいくつかの種類のなかから選択するのがよいであろう。
  市町村合併の後には道州制の導入が考えられている。300市への合併構想も生きているが,300市になれば地方自治は完全に崩壊する。小規模町村のサポートのためには2層制よりも3層制の実施が適当である。県の廃止は県庁都市を衰退させ,県庁都市の支配する都市システム全体の衰退となるであろう。
2040年のわが国の人口は1970年の規模となり,小規模町村ほど人口減少は厳しいことが予測されている。今後,費用対効果を考えるとインフラ施設の更新が困難なところが増えるので,インフラ施設のあるところに人が移住すべきだとする論もあるし,移民の推進計画もある。しかし,各市町村はこれまで通りの人口定住計画を続けており,無住地域の拡大を防止しながら人口減少時代を迎えることが期待される。
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© 2014 公益社団法人 日本地理学会
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