日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 211
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発表要旨
対日直接投資の経済地理学的研究
*宮町 良広
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抄録

生産、貿易、直接投資という世界経済の三大指標の中で、伸びが著しいのは、直接投資すなわち企業の海外進出である。欧米諸国では、送り出し(対外投資)と受入れ(対内投資)が相互に行われたため、各国における送出額/受入額の比率は1~2程度である。一方で日本は、送り出しに偏重し、受入れが少ないため、同比率は10倍ほどであり、世界的にきわめて特異である(Dicken)。そのため、直接投資に関する日本での学術研究は、日本企業の海外進出に偏重し、外資系企業の日本進出に関する研究は不十分であった。 しかし、1999年の仏ルノーの日産自動車への出資に見られるように、直接投資の受入れは日本経済の再生に不可欠なものとなりつつある。日本政府は対日投資の拡大を経済再生政策の主要な柱に据えており、 2014年6月には、諸外国に比べて高いとされる法人税率の引き下げを決定した。2014年に入って為替レートは1ドル100~105円で推移しているが、長期的には円高傾向が続いていると見てよく、したがって対日投資が急増する気配はない。しかしながら、日本経済のファンダメンタルズを考えると、中長期的には円安に動くことが予想され、そうなるとドルベースで見た日本での生産価格は低下するので、外国企業による費用指向型投資(製造・R&D拠点の設置など)が増加するとみてよいだろう。仮に円高傾向が続くとしても、ドルベースでみた日本市場の規模は拡大するので、外国企業による市場指向型投資(販売拠点の設置など)が進む可能性がある。こうした状況を考えると、対日直接投資の研究を早く始める必要性がある。 他方、足許の国内経済の現状を見ると、とりわけ地方経済の疲弊が目立っている。1次産業や商店街の衰退に加え、機械工場などの閉鎖が生じている。経済地理学ではこうした課題に関する研究が進んでおり、とくに1990年半ば以降の低成長期には「内発的発展論」が注目を浴びてきた。地方経済の現状を見ると、外からの新たな刺激を取り入れ、内発型と外来型の発展のバランスをとることが必要である。外からの刺激として、かつては国内大手製造業が想定されたが、今後は外資系企業を考える必要があるのではないか。20世紀後半に衰退を経験した英国の地方経済が、外資系企業の誘致によって再生したことはその証左である。 以上の問題意識により、本研究では、外資系企業の日本進出の経緯と現状を明らかにし、今後の展開を予想するとともに、それが日本の地方経済の再生に役立つ道筋を経済地理学の視点から研究することを目的とする。今回の報告では、まず対日直接投資の現状を概観する。

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