日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 217
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発表要旨
地域人口の将来推計における出生指標選択の影響
都道府県別の分析
*山内 昌和
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抄録

はじめに 将来人口の推計法として広く利用されているコーホート要因法は、出生、死亡、人口移動の3要因と基準時点での人口構造を利用して人口変化を記述する理論的に優れた方法である。
 コーホート要因法を用いて将来人口を推計する場合、出生、死亡、人口移動の各要素の仮定が必要である。これら3要素の仮定に関する既存研究のうち、地域人口の将来推計に関しては、人口移動の仮定が重視され、日本でも一定の研究蓄積がある。 それに対して、出生や死亡の仮定は、地域人口の将来推計との関連では積極的に検討されていない。近年は、日本の地域人口の変動において自然減少、すなわち死亡数に比べて出生数が少ないことによる影響が強まっている。したがって、地域人口の将来推計に関して出生仮定について方法論的検討を加えることの重要性は増しているといえよう。
地域人口推計における出生仮定に関する研究は、大別すると、仮定値設定の方法に関するものと出生指標の選択に関するものがある。本報告は後者に関心を寄せるものであり、1980~2010年の日本の都道府県別人口を例に、出生指標の選択が地域人口の将来推計の結果に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする。
 方法 本報告で検討の対象とした出生指標は年齢別出生率(Age Specific Birth Rate:ASBR)、子ども女性比(Child Woman Ratio:CWR)、総出生率(Genenral Fertility Rate:GFR)、標準化出生率(Standardized Birth Rate:SBR(EUの地域人口推計で採用された出生指標の仮定設定方法))の4指標である。これら4つの出生指標を地域人口の将来推計に適用した場合の影響を評価するために、1980~2010年の都道府県別人口のデータを利用して男女別年齢5歳階級別にコーホート要因法によるモデル推計を実施する。
具体的な検討方法は次のとおりである。コーホート要因法の考え方を用いて1985年、1990年、1995年を基準年として15年後の男女別年齢5歳階級別人口を算出する推計モデルを作成する。このモデル推計に必要な仮定については、出生仮定以外は実績値を利用し、出生についてのみ上記4指標を用いて仮定設定を行って推計人口を算出し、実績人口と比較する。出生仮定は、いずれの出生指標についても、基準期間(年)における全国と都道府県の比を一定とし、全国の実績値を用いて作成した。作成した推計人口のうち15歳以上人口は実績値と等しくなることから、0-14歳人口(男女計)の推計値と実績値を比較した。
 結果 分析の結果、推計人口と実績人口の乖離が少ない出生指標は、都道府県別にみれば様々なパターンがみられたが、乖離の程度が相対的に小さいのはSBRを用いたケースで、それ以外の3つの指標を用いたケースでは乖離は同程度であった。その要因は、SBRが年齢構造の影響を受けない指標であって、基準期間(年)における全国と都道府県との出生指標の値の比が推計期間中に安定的であったためと考えられる。ただし、SBRの場合に全国と都道府県との出生指標の値の比が安定的であったのは、1つには1980~2010年の都道府県別人口を対象としたためであると考えられた。したがって、SBRを用いたケースで実績値と推計値との乖離が小さくなりやすいという本稿の結果は、どのような人口集団にも当てはまるものとはいえない。このため、本稿の結果が示すのは、出生指標の選択自体が、直ちに推計人口と実際の人口との乖離の大きさを決めるものではないということである。
今後の課題は次の2点である。第1に、市区町村別のデータを用いた検証である。とりわけ人口規模が小さい自治体を対象として本稿と同様の検討をすることである。第2に、ベイズ統計の考え方を用いて地域別の出生率が推定されることがあるが)、そのような出生率を地域人口の将来推計に用いた場合に及ぼす影響を検証することである。いずれも今後の課題としたい。

  ※本報告は下記の成果に基づいている。 山内昌和2010.地域人口の将来推計における出生指標選択の影響:都道府県別の分析.人口問題研究70-2:120-136.http://www.ipss.go.jp/syoushika/bunken/data/pdf/19954404.pdf

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© 2014 公益社団法人 日本地理学会
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