主催: 日本理学療法士協会 九州ブロック会
会議名: 九州理学療法士学術大会2024 in 佐賀
回次: 1
開催地: 佐賀
開催日: 2024/11/09 - 2024/11/10
【目的】 仙骨疲労骨折は、本邦では陸上選手で発症頻度が高いと報告されているが、テニス選手の報告は我々が渉猟し得た限り皆無である。また、腹横筋・内腹斜筋は仙腸関節の剛性に関与することが知られているが、仙骨疲労骨折例における腹部筋群の定量的評価を示した報告はみられない。今回、仙骨疲労骨折を発症したテニス選手の症例を経験し、超音波画像による腹部筋群の評価から若干の知見を得たため報告する。 【症例紹介】 16歳男性、テニス部、右利き。練習中に左腰部痛および左臀部の痺れが出現し、発症2週後に当院を受診した。初診時X線画像では明らかな異常所見はみられなかったが、3週後のMRIで左仙骨翼に骨折線を認め、左仙骨疲労骨折と診断された。 【経過】 初診時は、左仙腸関節の動作時痛および左臀部痺れが主訴であった。理学所見では、左股関節内旋・胸椎左回旋の可動域制限、ケンプテスト左側陽性、左臀部の表在感覚軽度鈍麻を認めた。なお、下肢筋力低下、腱反射異常は認めなかった。初診から3週後、動作時痛・左臀部痺れ残存していたためMRI検査を実施し、左仙骨疲労骨折と診断され運動中止となった。診断後、体幹機能に着目し再評価を実施した。体幹機能評価として患側下肢の自動SLRを行い、腰部過伸展による代償動作を認めた。一方、意識的に腹横筋を収縮させた状態では動作時痛軽減がみられた。超音波画像による腹部筋群の筋厚評価 (安静時/収縮時)では、左腹横筋6.2/10.7 mm、内腹斜筋12.7/18.0 mmであった。再評価の結果から、腹横筋機能低下による仙腸関節不安定性が動作時痛・左臀部痺れの原因であると考え、体幹トレーニングを開始した。体幹トレーニング開始から2週後に神経症状の改善、5週後には動作時痛軽減がみられた。7週後のMRI所見で骨癒合認め競技復帰を許可。復帰から10週経過後の筋厚評価では、左腹横筋8.4/11.6 mm、内腹斜筋15.3/20.1 mmであった。復帰後の症状再発なく理学療法終了とした。 【考察】 本症例は、体幹トレーニング開始後より、動作時痛および左臀部痺れの改善がみられ競技復帰可能となった。過去の症例報告から、繰り返す垂直方向の荷重負荷により仙骨翼の骨梁が圧潰され、仙骨疲労骨折が発生すると考えられている。テニス競技では、コート上で多方向への走行動作、サーブ・スマッシュ・ストローク等の打撃動作を反復する。このような競技特性を踏まえると、本症例においては、仙骨への垂直および回旋方向の剪断力が累積し疲労骨折を発症した可能性が考えられた。再評価の結果より腹横筋機能低下を疑い、体幹トレーニングを開始した。訓練開始から7週後には動作時痛は消失しており、競技復帰可能となった。4か月後の超音波画像にて、左腹横筋の安静時筋厚2.2mm (35 %)、内腹斜筋の安静時筋厚2.6 mm (20 %)の増加がみられた。先行研究により、腹横筋や内腹斜筋は仙腸関節の剪断力を減じる作用が明らかにされている。さらに、Hodgesらは、超音波画像による筋厚測定が、安静時から低レベルの筋収縮までの筋活動の指標になると報告している。 本症例では、体幹トレーニングにより、腹横筋・内腹斜筋の安静時筋厚の増大がみられた。このことから、腹横筋・内腹斜筋の安静時筋活動が増大し、仙腸関節の安定性がより高まった可能性が示唆された。さらに、仙腸関節の安定化は、走行および打撃動作時の仙骨への剪断力を減少させ、動作時痛軽減に繋がったと考えられる。また、今回実施した腹横筋・内腹斜筋の筋厚評価は、体幹機能の定量的評価として有用である可能性が示 唆された。 【倫理的配慮】 ヘルシンキ宣言の倫理規定に基づき、対象者における個人情報保護などに十分配慮した。