日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 105
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発表要旨
昭和戦前期における野菜種子生産の進展
外来野菜の普及との関わりを中心に
*清水 克志
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抄録
1.はじめに
大正期から昭和戦前期の日本では,都市化の進行や鉄道輸送体系の整備が,近郊園芸・輸送園芸の発達を促すとともに,明治期に導入された外来野菜の普及も著しく進展した.このような現象に着目した既往研究では,野菜生産そのものや流通の実態について関心が注がれる反面,生産の前提条件となる種子の供給については関心が希薄であったように思われる.本発表では,当該期に農林省が実施した2度の野菜種子生産に関する実態調査の結果(『蔬菜及果樹ノ種苗ニ関スル調査』1929年・1940年)や,『種苗業者要覧(昭和五年度)』などの資料の分析を通して,当時における野菜種子生産の全国的な動向について検討する.その上で,品目ごとの違いを分析し,当該期に普及が進展した外来野菜の種子生産の特徴を抽出する。以上の作業を通して,野菜採種業の興隆が外来野菜の普及に果たした役割について考察する.

2.野菜種子生産の全国的動向
1927年当時の野菜種子の品目別の生産量をみると,ダイコン(5300石),ニンジン(2700石),ゴボウ(1200石)が群を抜いて多い.種子の大きさは品目よって大きく異なるので,その点を考慮しなければならないが,日本における伝統的な野菜生産・消費において,根菜類の比重が高いという特徴の一端を示しているといえる.
次に野菜種子の購入率を示した図1をみると,種子を購入する割合は,品目によって差が大きいことがわかる.購入率は,葉菜類で高率,果菜類やネギで低率であり,根菜類は中位であるといえる.とくに外来の結球野菜であるキャベツ(89%),ハクサイ(88%),タマネギ(79%)が上位3位を独占している点が注目される.このことから,外来野菜,とくに結球野菜は自家採種が難しいために,普及の当初から種苗業者が生産する種子への依存が高かったことが推察される.
1930年代における外来野菜3品目の道府県別採種量を示した図2をみると,1品目の採種量が数十から数百石という道府県が散見されることから,種子の特産地が形成されていたことがわかる.

3.外来野菜普及の前提条件としての種子生産
外来野菜3品目のうち,ハクサイの採種量は,愛知(310石),宮城(280石),福島(250石),福岡(150石),茨城(140石)などで多い.ハクサイは交雑しやすい特性のため,育採種業の進捗が遅かったが,1920年代から種苗業者による育種に加え,松島湾(宮城),知多半島(愛知),涸沼(茨城)などに,周囲との隔絶性の高い採種地が形成されたことにより,急速に栽培が広まった.このうち宮城,福島,茨城などでは,ハクサイ種子生産が大規模な産地形成へと結びついた.ハクサイの作付面積は,1940年代にはダイコンに次ぐ第2位となった.
タマネギの採種量は北海道(250石)と和歌山(230石)が群を抜いて多い.北海道では開拓使によりタマネギが導入され,早くから秋穫り産地が形成された.また明治中期には大阪の泉州地方で育種に成功し,春穫り産地の形成が進むと,後背地である和歌山が種子の供給地となっていった.キャベツの場合も,北海道(63石)をはじめ,採種量の多い道府県において,産地が形成されている場合が多い.当時,五大市場へのキャベツ出荷量が最大であった岩手では,採種量が僅少であるが,これは北海道からの種子の供給が多かったためと推察される.  当日の発表では,採種地域の具体的な資料をもとに報告する.
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