日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 313
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発表要旨
立山東面・タンボ沢で発見された岩石なだれ堆積物
*苅谷 愛彦松四 雄騎
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抄録
◆はじめに  立山(富士ノ折立,大汝山,雄山)東面には圏谷や氷食谷が発達し,それらの底部で現成氷河も確認されている.立山東面の氷河地形は主に更新世後期に生じたと考えられるが,未踏査域も多く,氷河消長の復元には至っていない.また崩壊や流水侵食による氷河地形の解体史は論じられておらず,氷河形成前の地形場も不明な点が多い.飛騨山地の地形形成を様々な時空間スケールで論じるには,事例集積がさらに必要である.本発表では,氷食の影響を強く受けたとみられるタンボ沢(図1)で発見された岩石なだれ(深層崩壊)堆積物を報告する.
◆地域・方法  タンボ沢は雄山から東に向けて開いた流域をもつ.標高2300 m付近より上流側は岩壁が北北東-南南西方向に連なる.周辺流域で発達する氷河地形の高度と形態の類似性から,これらの急壁は圏谷壁と考えられる.一方,標高約2300 m以下では幅500 m前後の平底状谷底面が標高1650 m付近まで連続する.この谷底面には複数のリッジがあり,巨礫が点在する.リッジはその形状と規模から土石流性とは考えにくく,氷河-融氷流性または崩壊性と推察される.地質は,標高約1800 m以上にジュラ紀の角閃石黒雲母花崗閃緑岩・トーナル岩が,同以下に中新世の斑状黒雲母花崗岩-花崗閃緑岩が分布する.
◆結果  タンボ沢下部に大規模露頭(Loc.1)を確認した.露頭高は約30 mで,中部を境に岩相が異なる上下2層の堆積物が露出する.上位層は花崗閃緑岩の角礫・亜角礫を主とするルースな礫層(層厚≧15 m)で,淘汰は悪い.最大径3 m程度の巨礫を含む.基質より礫の含有率が高く,下位層より色調は明るい.一部の礫にジグソー・クラック(JC)を認める.上位層の下限付近には粗砂の基質を主とするオリーブ灰色の厚さ1 m前後の礫層が挟まれる.この礫層は側方連続がよく,水平に15 m以上追認できる.上位層上限は不明である.一方,下位層は粗砂の基質に富む礫層(層厚≧15 m)で,礫は花崗閃緑岩からなる.淘汰は悪く,やや固結する.多くの礫がJCを伴う.また花崗閃緑岩の細粒相が破砕して細礫層をなし,それらがダイアピル状に立ち上がり下位層内を伸展する状態が確認された.さらに,JCを伴う礫が上下方向に約0.8 mにわたって再配列し,破砕した礫の一部に上流側(西)上がりの系統的変位(2-3 cm)を生じていた.礫の再配列を含む変形帯の幅は約20~30 cmで,これに平行する最大厚さ5 cmの礫混じりシルト層を伴う.シルト層と周囲の礫層との境界面はN26°W・73°Sだった.下位層の下限は不明である.なお,Locs. 2, 3でもJCの発達した礫層を確認したが,Loc. 1の上位層・下位層との関係は不明である.            
◆考察  JCは,火山体・非火山体を問わず岩石なだれなどの大規模深層崩壊で形成される.崩壊物質の移動過程で礫が圧砕されるものの,礫相互の位置関係は変わらずに生じると考えられる.下位層中の礫の上流側上がり変位は岩石なだれ堆積物にしばしば発達する圧縮場での剪断構造と解釈される.また上位層下限に挟まれる薄い礫層は,上位層が流動する際に剪断を受けて生じた基底すべり層(basal layer)と考えられる.下位層中のダイアピル状貫入も含め,ここに挙げた堆積・変形の特徴は,海外の岩石なだれ堆積物で報告されているものと多くの点で共通する.なお,類似の堆積・変形構造は山岳氷河堆積物でも確認されているが,Loc. 1の上位層・下位層は厚く,水流円磨礫を含まない点で特異である.以上より、上位層・下位層は岩石なだれ起源の礫質堆積物と判断される.ただし,岩石なだれ発生斜面を特定するには至っていない.上位層・下位層の堆積と氷河消長との関係は不明であるが,Loc. 1が氷河性の可能性をもつリッジを伴った背後の地形面より下位にあることを考えれば,上位層・下位層は氷河形成前に生じたことが疑われる.岩石なだれ発生斜面は涵養域の形成に好条件をもたらしたが,後の氷食で消失したことも考えられる.
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© 2014 公益社団法人 日本地理学会
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