抄録
ユーラシア乾燥地には特徴的な4種類の自然災害がある。それらは、日本に飛来する黄砂の発生を引き起こす砂塵嵐、干ばつ、砂漠化、ゾド(寒雪害)であり、英語の頭文字をとって4D災害とよぶ。われわれは4D災害を干ばつとそれから派生するものの災害群ととらえて統合的に扱うべく、「乾燥地災害学の体系化」(略称、4D)プロジェクト(科研費基盤研究(S)、2013-2017年、代表:篠田雅人)を立ち上げた。このプロジェクトは、ユーラシア乾燥地における自然災害の発生機構の体系的理解と能動的(災害前の)対応の提言を目的としている。 上記プロジェクトでは、最近の事例である2009-2010年のゾドに特に注目し、この事例の分析から研究をスタートさせており、今回はその成果を連続した3つの発表として示す。3番目となる本発表では、家畜死亡率と植生・積雪の空間分布の対応を分析した後、社会脆弱性の考慮と、牧畜モデルを利用した自然要因・社会要因の影響の統合によるリスク評価の計画を述べる。 本研究では、植生や積雪などの気象条件と2010年ゾドの家畜被害率を比較した後、社会的要因の寄与の考慮を試みる。まず、設備(畜舎など)・機械の数、通信条件、牧畜民の年齢・性別別人口、世帯当たり家畜数、地域生産力(GDP)、飼料準備量、畜産物価格などを説明変数とした主成分分析をおこない、次にこの結果をもとにした牧畜モデル上における自然・社会条件の統合によるリスク評価を計画している。