日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 806
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発表要旨
鉄鋼スラグ埋立地の浸出水が流入する河川の水質連続モニタリング
*加藤 晶子堤 克裕
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抄録

河川の上流域・水源域では、廃棄物や残土等の埋立地からの浸出水が地下へ浸透し、地下水や河川の水質を悪化させ、飲料用井戸や農業用水等に問題を生じることがある。このような場合、直近の河川水質を連続的に監視する必要があるが、一般的に上流部の河道内では、水や土砂の流下による影響が大きく、とくに気象条件によっては急激に激しい変化にさらされるため、計器を設置することが困難である。本研究では、耐久性が高い現場用多項目水質計を用いて、造成工事に使用された鉄鋼スラグによる影響で、アルカリ性の高い浸出水が確認された千葉県内の河川での連続観測を行った。 調査期間は平成24年12月から26年6月であり、この間24年12月から26年3月にかけて、高アルカリ水の原因である鉄鋼スラグが事業者により撤去された。埋立て現場は河川沿いに位置し、23年12月時点で、支川上流側から下流側へかけてpH平均7.7→9.4、Caイオン濃度上流側20mg/L前後、下流側30mg/L前後であり、鉄鋼スラグから溶出した浸出水の影響が確認されている。また、定期的な採水・測定より、まとまった降雨の後ではpHが上昇する傾向がみられた。これより、降雨後のpH上昇が懸念され、とくに多量の降雨時からその後にかけてのpHの挙動を確認すること、また鉄鋼スラグ撤去工事の影響による浸出水の水質変化をみるため、下流側に現場用の多項目水質計を設置し、サンプリング間隔1時間で観測した。この水質計では、pH、電気伝導率、溶存酸素、濁度、温度、塩分を測定できる。pHセンサーについてはほぼ3~4週間毎に校正を行った。連続モニタリングにおいては、撤去工事開始後、下流部のpHの値は徐々に下がっており、開始前では9.5前後、25年2月~3月で8.5~9、4月~7月で8~8.5、8月で8前後、9月~26年3月7.5~8、工事終了後は7.5となり、影響を受けていない上流側の値にかなり近くなってきている。一方電気伝導度については、降雨時を除き、期間を通じて20mS/cm前後で推移している。また、降雨時には表面流出による水量増加で河川の水質が一時的にうすまり、 pH、電気伝導度とも急速に低下するが、1日後にはほぼ元の値に戻っている。時間雨量が多い場合、降雨後にpHが一時的に元の値より上昇することが多く、観測期間を通じて最大pH9.5~10であった。pHの上昇と累積雨量や降雨時間との明瞭な関係はみられなかった。集中豪雨時には、計測器を流失することはなかったが、流下する土砂によりセンサーが急速に埋没し、測定値に影響した。このため、センサー保護筒に不織布を巻き、センサーが直接埋まらないように改良した。しかし降雨時の濁度は急上昇しており、細かい粒子の流入は避けられない。時間雨量20㎜以上の降雨後は、定期以外のメンテナンスの必要があると考えられる。

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