抄録
1.はじめに
浅海底地形に関する知見は,現在でもきわめて少ない。我々は最先端のマルチビーム測深技術を用いて精密海底地形図を作成し,浅海域で地形学研究を進めることを目指している。また,作成した海底地形図を利用した地理学研究や,考古学など関連科学の研究も進めつつあるので,その一部を本発表で紹介する。
2.方法
我々の研究グループでは,平成22年度に科研費(基盤研究(A) 22240084)を用いて,ワイドバンドマルチビーム測深機R2 Sonic 2022およびその周辺機器を導入した。その後,水深1~2 mの極浅海域から最大水深400mまでを連続的に測深し,1~2 mグリッドで可視化する世界最高レベルの技術を実用化してきた。これまでに,琉球列島の石垣島・久米島・沖縄島南部・喜界島で測深を行い,可視化作業を進めている。
3.浅海底地形学へ向けての取り組み
水深130 m以浅の浅海域では,氷期・間氷期で侵食・堆積作用を交互に受けながら地形がつくられる。しかし現在の地形学では研究対象となることは少なく,地形の教科書で解説されることもほとんどない。我々が測深し作成した海底地形図からは,旧河谷や海食崖・カルスト地形等の氷期の侵食地形や,サンゴ礁や砂堆等の間氷期の堆積地形のほか,変動地形と考えられる直線的な地形の配列等がみられる。まず地形の記載からはじめ,一部でその形成史を探る研究を進めている(石垣島・名蔵湾の沈水カルスト地形など)。ここでは測深結果と現地観察や採取試料,詳細に復元されつつある海面変化史などを合わせることによって,地形の成り立ちを議論することが可能である。
また,海底に残された地形面は,最終融氷期の海面上昇期または更新世後期の低海水準期おける造礁面および侵食面が重複して形成された地形であり,海面変動や地殻変動を復元する重要な証拠となる。
4.浅海域の地理学および関連諸科学への応用
沿岸浅海域は人による海域利用が盛んな地域である。マルチビーム測深による精密海底地形図は,沿岸防災に役立つ海底地形情報(サンゴ礁海域では波浪の減衰に効果的な縁脚縁溝系の分布と形状など)を提供するとともに,沿岸海域の自然環境や人間活動およびそれらの相互作用について観察・考察するためのベースマップとなる。我々は考古遺物や伝統的海域利用名称のマッピングなど,得られた浅海底地形と関連諸科学と結びつける研究を進めている。