抄録
Ⅰ はじめに
2013年11月8日にフィリピン・レイテ島に上陸した台風ハイエン(現地名ヨランダ)は、暴風雨による被害に加えて、過去にない規模での高潮が島嶼沿岸部を襲い、甚大な人的・物的被害をもたらした。ArcGIS Onlineを通じて公開された米国連邦緊急事態管理庁による建物被害判読地図からは、その被害がレイテ島北部ばかりでなく、セブ島北部やパナイ島北部の半島部にまで広範囲に及ぶことがわかる。 フィリピンのNational Disaster Risk Reduction and Management Council(2013)による報告に基づけば、2013年12月24日時点の死亡者数は6,109人、負傷者数は28,626人、行方不明者は1,779人に上る。依然として、約89万世帯が自宅とは異なる場所に避難する状況にある。この数は推定被災人口の約26%に相当する。 被災から約数ヶ月が経過し、復旧が徐々に進むと同時に、様々な情報収集も可能になりつつある。そこで、本発表では、NDRRMCのホームページ上で公開される被災者名簿の分析および2月中旬に実施するレイテ島とセブ島での現地調査を踏まえて、被害状況の把握と復旧・復興の課題点を整理したい。
Ⅱ 被災者名簿のデータベース化
東日本大震災と同様に、フィリピンにおいても被災者名簿が作成されホームページ上で公開される。同名簿には、被災者の氏名や性別、年齢、地域、死因等が英語で掲載される。ただし、空欄や不明に該当するものも多く、断片的な情報でしかない。そのような資料上の問題はあるが、被災地で網羅的に収集された情報であり、著者らが現時点で入手できる被災者に関する最も詳細な情報である。そこで、この被災者名簿をエクセルを用いてデータベース化し分析に利用する。
Ⅲ 被災者名簿の地図化・テキスト分析
まず、被災者データを地域別に集計し、死者数と負傷者数の地図化を行った(第1図)。死亡者の86%はレイテ地域に集中し、タクロバンで甚大な被害が生じた状況と一致する。負傷者は高潮の潮位が相対的に低いセブ島やパナイ島でも確認できる。 次に、被災者名簿には備考として、死亡や負傷の原因が自由記述の形式で部分的に記載されている。そこで、これらの記述内容に対してテキスト分析を適用し、前置詞を除く英単語の出現数及び共起頻度を求めた。それらのうち頻度の高い単語について死亡者別、負傷者別にマッピングした(第2図)。 死亡者の場合、大多数を占める「Previously reported unidentified」の3単語を除くと、死因に関連する3つの単語群が抽出された。それらは①drowned(drowningを含む、単独使用も合わせて計64件)やcardiac(13件)、arrest(20件)等の溺死を意味する単語群、②tree(26件)やdebris, hit, fallen, toppled等の倒木やがれきとの衝突を示唆する単語群、③図中に表示されないが低体温を意味するhypothermia(13件)である。3要因とも高潮や暴風雨による直接被害である。負傷者の場合、wound(woundedを含む、計1659件)とpunctured(976件)やlacerated(464件)との共起や回答者数が多く、手足に関連する単語が頻出することから、避難時に手足に切り傷や擦り傷を負った可能性が考えられる。また倒木や建物倒壊による負傷も示唆される。
Ⅳ 復旧・復興への課題
2014年2月中旬にセブ島及びレイテ島の被災地においてフィールドワークを実施し、復旧・復興の状況を確認する予定である。被災者名簿の分析と被害状況の対応関係、被災地の復旧状況、復興に向けての課題点を整理し、その成果を学会にて報告する。