日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P074
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発表要旨
日韓中地理学会議における若手研究者の参画と研究交流
*今野 絵奈山本 健太荒木 一視則藤 孝志寺床 幸雄
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抄録
<B>1. はじめに</B> <BR> 日韓中地理学会議はアジアで地理学を研究する大学院生や若手研究者(以下,若手地理学者)の交流を目的として2006年に始まり,2013年までに日本,韓国,中国で計8回開催されてきた。この会議への参加や主体的な運営を通じて,参加した若手地理学者は国内外の研究者との絆を深め,新たな研究テーマを得る機会としてきた。そこで本発表では,過去日本で開催された3回(第2回,第5回,第8回)の会議に若手研究者がどのように参画し,研究交流を図っていったか,会議テーマ,ロゴ,グッズの視点から紹介し,今後の会議のあり方を検討したい。<BR><B>2.日本開催の会議の特徴</B><BR><B>ⅰ)第2回熊本会議</B><BR> 2007年10月,熊本大学を主たる会場として,2007年日本地理学会秋季大会に合わせて,第2回会議が開催された。14名で実行委員会を立ち上げ,地理学の枠組みと展望を再考する機会と考え,「New perspectives from Asia」を大会テーマとした。口頭・ポスター発表ともに一部屋で行い,60名の参加者が互いの研究をわかり合えるというアットホームな雰囲気であった。巡検では,阿蘇山をはじめ,熊本の自然や産業を見学し,参加者同士の親睦を深めることができた。<BR><B>ⅱ)第5回東北会議</B><BR> 2010年11月,東北大学を主たる会場として,第5回会議が開催された。25名で実行委員会を立ち上げ,持続的発展に向けた環境調和型社会の実現に地理学からも貢献したいとの考えの下,「“Green Society” A Geographical Contribution」を大会テーマとした。参加人数は130名にのぼり,日韓中以外からの留学生も加わった。新たな取り組みとして,口頭発表の座長を参加している若手研究者,院生から選出し,また「若手地理学会賞」を設立した。東北大学地理学教室主催によるキャンパスツアーが実施されたほか,「岩手・宮城内陸地震の被災と復興の取組み」をテーマに巡検が実施された。<BR><B>ⅲ)第8回九州会議</B><BR> 2013年7・8月,九州大学を主たる会場として,第8回会議が開催された。38名で実行委員会を立ち上げ,グローバル化する経済・社会に対し,多様性と協調性が織りなすアジアの姿を提示できると考え,「One Asia / A Thousand Asias: Toward the Establishment of New Crossroads」を大会テーマとした。参加者は過去最高の150名に達し,インドやベトナム,オーストリアからの研究者や院生も加わった。第5回会議の運営を踏襲しつつ,交流を深める目的で,参加者の無記名投票で印象に残る興味深い発表を選出し,“Impressive Presentation Award”を授与した。巡検では,九州大学実行委員主催の福岡市内ショートトリップが複数設定されたほか,産業近代化と脱工業化社会の理解を通してアジアの持続可能な開発の類似性と多様性を考えることをテーマとして,福岡・北九州地域の理解を深めた。<BR><B>3. 会議ロゴとグッズ</B><BR> 若手研究者の交流を深めることを目的として実行委員会では,会議のテーマや開催地に即してロゴとグッズを毎回作成している。ロゴの基本要素は,“地球(Globe)”と会議参加者であり,研究成果が地理学界に大きく貢献することとこの会議の開催が研究交流をさらに発展させるよう願いを込めている。このロゴ基本コンセプトは第2回会議で提示され,第5回会議では,会議テーマに沿うよう“葉”をつけ加え,「緑の社会」や,会議に携わった者が成長し続けるという新芽を示している。また,第8回会議では,8回目の開催であること,人々をつなげるということ,そして会議参加者の無限の可能性を示していることをロゴに託した。<BR> 一方,オリジナルグッズは地場産業や「和」を基調とし,実行委員が選定,デザイン,発注をしている。グッズは,交流促進,参加満足度の向上,次回参加へのモチベーションを上げるためのツールとして大いに役立っている。<BR><B>4. 今後の展望</B><BR> これまで,同世代をはじめとした研究者が積極的に,また気負いせずに会議へ参加できること,研究発表において闊達な議論ができること,将来につながる研究者ネットワークが構築できることなど,若手研究者が国際会議を運営することで地理学界に貢献してきた。こうした取り組みにより,関連分野の研究者や,日韓中以外の参加者を増やしつつある。一方,日本では若手地理学者の参加減少がみられるなど,築きはじめた交流の接点をさらに発展させる上で困難に直面している。これまでの開催理念を踏まえつつ,若手地理学者が将来に活路を見いだせる会議となるようあり方を模索していく必要があろう。
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© 2014 公益社団法人 日本地理学会
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