日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 316
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発表要旨
小規模島嶼におけるジオパーク構想の推進と課題-鹿児島県三島村を事例に-
*深見 聡大久保 守
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抄録

観光研究の場面において、地域住民が自地域の観光に主体的に関わるという観光のあり方に関する議論の高まりがみられる。観光の構成要素を考えると、観光対象となる地域に暮らす住民が支えるコミュニティの存在は、観光の持続的な展開を図る上で不可欠である。そのなかで、ジオパークはまさしくこの状況に合致する仕組みとして注目される。その際、日本のジオパークの多くが過疎地域に分布していることは特筆され、その中でも、より条件不利地域とされる小規模島嶼での認定がみられる点が特徴的である。世界ジオパークに認定された隠岐や、日本ジオパークに認定されている伊豆大島、天草御所浦、おおいた姫島は、いずれも過疎化が著しい小規模島嶼である。これらの島々では、地域ならではの自然資源や人文資源を「大地の遺産」と位置づけ、地域の活性化につなげていくというジオツーリズムに取り組むべく、ジオパークの導入を図ってきた経緯があり、認定後は知名度の向上に関して一定の成果がみられる。一方で小規模島嶼においては、その地理的特性から固有の課題も指摘されてきた。とりわけ、離島振興策として多額の公費を投じ、港湾・道路といったインフラ整備をはじめ、中央の大手資本などによるリゾート開発が進められた事例も多い。それにもかかわらず、その多くで当初期待された経済的な効果などを含む条件不利の克服に繋がったかと言われれば疑問符をつけざるを得ない。むしろ、公共事業に依存した短・中期的な地元の雇用創出という性格が色濃く、地域資源を活かした持続的な観光の取り組みに昇華した事例は決して多いとは言えない実情を直視しなければならない。 以上のような問題意識に立って、本研究は、新しい観光形態としてのジオツーリズムに注目し、特に小規模島嶼に焦点を絞ってジオパークの仕組みを導入することの可能性について検討を加えることを目的におこなう。  
研究の目的を達するために、日本ジオパークの認定を目指している地域(日本ジオパークネットワーク〔JGN〕の準会員)の中で、2013年9月現在唯一、小規模島嶼から構成されている三島村ジオパーク構想を取り上げる。本構想は、鹿児島県三島村の有人三島(黒島・薩摩硫黄島・竹島)と海底を含む鬼界カルデラを主なエリアとして、特に薩摩硫黄島を中心に具体化の動きがみられる。 研究方法は、(1)三島村ジオパーク構想について概観した後に、(2)2013年9月6~8日,12月21日に三島村役場及び薩摩硫黄島住民への聞き取り調査をおこない、(3)その両者の意識をとおして、小規模島嶼におけるジオパーク構想の推進と課題について検討を加える、という手順で進めた。
その結果、小規模島嶼でジオパーク構想を展開していくときに、行政と地域住民の連携はもちろん、多様な主体の連携という理想を追求する以前に、高齢化・過疎化、狭いコミュニティという特性を踏まえた丁寧に導入過程における合意形の蓄積がなされる必要性が浮き彫りになった。  この点に関して、以下のような整理が可能であろう。行政・地域住民のいずれもジオパークの仕組みを理解した上での、三島村への導入については、理論上は高い可能性が見出せる。このことは、日本国内にすでに複数の小規模島嶼においてジオパークの認定地が誕生しており、認定の審査段階において、小規模島嶼という地理的条件が不利に働くことはないと思われ、むしろ、ジオパークやジオツーリズムの位置づけは定義の明確化と実質化を常に意識しつつ、現場への導入を図る必要がある。さらに両者の定義からすれば、小規模島嶼では空間的完結性の高さから、ゲートウェイとしての有用性も期待できる。 一方、課題も存在する。それらは、(1)小規模島嶼であるがゆえに、もはや行政や地域住民だけではそれらの仕組みを支えることが人的にも物的にも困難な点、(2)かつて中央資本によるリゾート整備がなさるといった外部依存の開発が頓挫した過去や、役場が三島村外の鹿児島市に置かれているため住民との距離感が払拭しがたい状況が存在するなどの理由から、観光の持続可能性を希求する議論が住民主体でおこなわれる機会に乏しかった点、の2つに集約できる。これらの克服を少なくとも試みる取り組みを始めることが、ジオパーク構想推進の最大の意義と言えよう。特に(2)に関しては、ジオパーク構想の推進段階でジオパークの仕組みを知るというきっかけが行政主導であったとしても問題ではない。むしろ重要なのは、知った後の実際にジオツーリズムを展開する担い手が住民主導でなければ、過去の開発の失敗と同じ道を繰り返しかねない。  
これまで見てきたように、ジオパーク構想の推進にあたっては、特に小規模島嶼の場合、理論上の可能性は見出されても、その前提として、地域住民の理解がなければ容易ではないことが確認された。

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