日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P048
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発表要旨
関心生起の流動分布予測と可視化
3次元景観データとの統合アプローチ
*杉本 興運
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抄録
GISを応用した観光レクリエーション空間の合理的な計画•管理技法における主要題目として, 景観資源の評価や魅力度推定(visual resource assessment and modeling)の研究が発展してきた(Chhetri and Arrowsmith, 2008).近年では空間管理におけるより有効性の高いアプローチとして,来訪者の現実空間(景観)に対する印象評価を景観の物理的変数と統合し,算出される場所ごとの魅力度をGISによって可視化するという方法が行われるようになった(Chhetri and Arrowsmith, 2008).こうした研究は主に自然観光地等におけるマクロスケールでの評価を想定しており,小領域あるいは複雑な空間設計を有した観光レクレーション空間の評価には適さない.これに対し,Sugimoto(2013)は,来訪者の関心生起地点(写真撮影地点)を空間情報として取得し,分析することで,ミクロスケールでの詳細な空間評価を可能にした.また,関心対象への視線の集積を,対象地域を覆うグリッドメッシュ間の関心生起数の流動データとして表現し,発地の関心発生数と着地の関心吸収数およびグリッド間距離を説明変数として空間的相互作用モデルを適用することで,視距離が関心生起に与える影響を定量的に分析した.しかし,要因分析が主体であったため,モデル精度の検証に関しては不十分であり,関心生起からみた空間の魅力度推定モデルとしての適用可能性に関しては言及されていない.本研究では,この関心生起の流動予測モデルのさらなる精緻化と予測分布の空間的可視化を行う.この過程において,対象地の3次元データを新たに活用し,物理的な景観特性に関する数値情報を関心生起の分析と組み合わせることで,人間の心理的側面と対象地景観の物理的側面とを統合した空間評価のさらなる可能性を提示する.
研究対象地は都立日比谷公園である.庭園•公園は都市の重要な人文観光資源として位置づけられており,当該公園は国の観光資源評価ランクで高く評価されている.日比谷公園とその周辺の物理的な景観特性を把握するために,2m間隔の3次元データ(DSMとDTM)と建物や水系のポリゴンデータを使用し,3次元データを樹木,建物,水系の景観要素ごとに分離し,それぞれを立体的に重ね合わせて基本的な景観構造を解析した.そこで得られたデータを,杉本(2013)の研究で検討した,関心生起の流動パターンを予測するためのポアソン/負の二項重力モデルに新たな説明変数として組み込み,係数値を最尤法によって推定した.また,説明変数の組み合わせから複数のモデルを構築し,適合度や実測値と予測値の誤差を比較した.最後に,得られた関心生起の流動分布を,GoogleEarthあるいはArcGISで作成した2次元や3次元の景観モデルの上で可視化し,平面と立体の側面から対象地景観と観光者の関心生起との関係を調べた.
分析の結果,グリッド間距離,関心発生数,関心吸収数だけを説明変数としたモデルでも予測精度は比較高かった.しかし,見晴らしの良い丘や池の周囲といった,局地的なスポット特性の影響で関心生起を上手く予測できない箇所があった.そこで,特定の景観要素の存在を明示的に変数に取り入れたモデルを構築した結果,予測モデルの精度向上がみられた.さらに,利便性を考慮し,2つ目のモデルから算出に手間のかかる関心吸収数を除外したモデルを構築した結果,予測精度は前2つに比べて下がったが,比較的有用性の高い状態を維持していた.
 Chhetri, P, and Arrowsmith, C. 2008. GIS-based modelling of recreational potential of nature-based tourist destinations. Tourism Geographies, 10, 233–257.  
Sugimoto, K. 2013. Quantitative measurement of visitors’ reactions to the settings in urban parks: Spatial and temporal analysis of photographs. Landscape and Urban Planning, 110: 59-63.
杉本興運. 2013. 関心線の空間情報取得と関心生起条件の空間的相互作用モデルによる分析. CSIS DAYS 2013 全国共同利用研究発表会研究アブストラクト集, 49. 
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© 2014 公益社団法人 日本地理学会
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