日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S0509
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乾燥-半乾燥地域の地形変化と農業的土地利用
*大月 義徳
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抄録

本報告は、乾燥-半乾燥地域およびその周辺地域における地形変化の実態とともに、当該地域の農業的土地利用事例を2例紹介する。これらは、上田元(東北大)、佐々木明彦(信州大)、関根良平(東北大)、佐々木達(札幌学院大)、蘇徳斯琴(内蒙古大)、西城潔(宮城教育大)各氏らと実施した共同研究の一部である。 東アフリカ、ケニア中央高地における半乾燥-亜湿潤地域Laikipia平原と、これに隣接する熱帯高地域Aberdare (Nyandarua) 山地の地形変化とその時間スケールは、14C年代測定結果等にも基づき、下記の表のようにまとめられる。 Laikipia平原は標高1,850~2,000 m、年降水量が700 mm 前後であり、調査地域においては熱帯高地から流下する(唯一の)恒常河川沿岸の河成段丘面 (1.4~1.6 ka, δ13C補正)、および隣接する基盤岩緩斜面が農地利用されている。基盤岩緩斜面では2.0~2.5 ka以降、シートウォッシュが卓越したとみられるが、多くの場合、ウォッシュ収束に伴い発生するチャネルにおいても斜面削剥量が小さいため、農家は畑の縁辺・境界にチャネルを沿わせるように耕地を配置している。ただし、ところによりチャネルまたはガリーによる線的浸食が比較的顕著に発現している箇所もあり、そこでの浸食総量は1~2 mである。 隣接するAberdare山地農業地域(標高2,300~2,800 m、年降水量1,000 mm以上)では相対的に地形変化速度が大きく、むしろ日本などの湿潤温帯と近い頻度での斜面更新がみられる。谷壁斜面上の浅層斜面崩壊については、発生後の農地利用などにより崩壊地形が不明瞭化する場合が少なくない。多重スランプ・ブロックスライド(~表層崩壊)などの先駆的斜面変位を示す階段状斜面等においても、比高1.5 m程度以下の滑落崖・小崖は、農地拡大等で極めて容易に消滅する。よって、やや広域にわたり崩壊跡地、崩壊初期変位地形が人為等により消失している際の農地の土地条件評価は、合わせて表層地質、土壌層位に関わる情報もより注意深く収集する必要があり、また今後の課題となろう。 中国内モンゴル自治区西部、烏蘭布和沙漠東縁の阿拉善左旗巴彦喜桂集落付近では、過去数十年の時間スケールにおいて見かけ上1~10 m/yr程度の、また完新世前期以降というやや長期的な時間スケールにおいても、10-1 m/yrオーダーかそれを上回る平均的速度での沙漠の移動・前進が生じている。そのため、黄河河床と比高14 m程度の左岸河成段丘面 (7.2~8.7 ka) は、広い範囲にわたりほぼ全面的に砂丘下に埋没している。上記集落は段丘崖下の氾濫原上に立地し、住民は集落近傍から黄河河道にかけての氾濫原上に展開する農地において、近年はヒマワリの集中的作付など、環境負荷の大きい土地利用を行っている(大月ほか, 2010; 関根ほか, 2010)。 本地域の年間160 mm 程度の降水条件下において、地下水位の極めて浅い氾濫原は地表からの地中水蒸発が活発であり、元来、黄河河道に隣接する農地は、土壌表層に塩類が集積し塩性化しやすい。本地域では土壌塩性化への対応のひとつとして、河川水の導入による堤間農地等の冬季湛水が実施されている。これは、黄河特有の懸濁物質に富んだ河川水を農閑期に農地に引き込むことにより、塩類集積を含む農地の地力低下を、ある程度抑制・緩和することを意図するものである。こうした河川水による冬季湛水は、黄河河道沿いの多くの農地で確認されるが、とくにここでの事例のように1箇所の水門で取排水を行うには、河川本流の冬季凍結が必要条件となる。すなわち、河川凍結開始から完全凍結に至るまで本流の水位が約1 m上昇し、完全凍結直前に水門を開門し、農地に河川水を引き込み、その後閉門する。一方、春季の解氷時には黄河の水位が低下し、再び水門を開けることにより農地に湛水されていた河川水は、黄河本流に排水される。 以上のように、冬季から春季にかけての農地維持期を介在させることにより、黄河沿岸の農業的土地利用は、ある程度長期にわたり成立してきたと捉えることができる。しかしながら今後、本地域における近年の状況がより進行し、過重な連作、化学肥料の多用等により、地力や作物収量の低下が慢性化するようであれば、本来の土地環境の受容度を超えた環境負荷が顕在化すると言わざるを得ないであろう。現時点においても耕作放棄地が目立ち始めており、今後の環境利用のあり方や、その持続性が注目される。

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