日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 816
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発表要旨
東京都港区における屋上緑化の進展過程
*山島 有喜
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キーワード: 屋上緑化, 再開発, 港区
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抄録

1.はじめに
 地上緑地の拡大が難しい都市部において,ヒートアイランド現象緩和や省エネルギー化の解決策として屋上緑化が注目されるようになってきた.
これまで,緑化工学,造園学の分野において,熱収支,樹種,土壌,基盤,景観についての検討が,都市計画学において,具体的な都市における屋上緑化の現状や,関連する法制度や施策に関する分析が行われてきた.一方で,都市の中で屋上緑化がどのような過程を経て進むのかについて検討した研究は見られない.本研究は,東京都港区を事例に,各種条例・制度の比較検討,「みどりの実態調査」など各種資料の閲覧,ヒアリング調査を通じ,港区の屋上緑化の現状について整理するとともに,都心部において屋上緑化の進展過程をモデル化することを目的としている.
2.港区における屋上緑化の現況
 木構造建築物が建て替わる際に耐火構造建築物に更新されることから,開発行為によって屋上緑化が広がっていくことを明らかにするため,丁目別屋上緑化率および丁目別木構造建築物率に着目し,港区全体の平均値より高いか低いかによって4つのグループに分けて現況分析を行った.その結果,六本木や新橋周辺の再開発地域において屋上緑化率が高く,木構造建築物率が低い,住宅地の広がる高輪地区において屋上緑化率が低く,木構造建築物率が高い,など,各分類が地域的にまとまって存在していることが明らかとなった(図).
3.屋上緑化を進展させる要因
以上の分析から,屋上緑化を進展させる要因を3点導き出した.
1)建築物の構造
 木構造建築物は耐火構造建築物と比べて,屋上緑化を施せる強度を持っていないために屋上緑化が困難である.また,耐火構造建築物であっても,マンションなどの住居系建築物は積載荷重制限が厳しいため,簡素な屋上緑化になりやすい.一方,大規模民間施設の積載荷重には余裕があるため,植栽が豊かで土壌厚も十分な屋上緑化が可能となっている.
2)建設主の意向
 屋上緑化に積極的な建設主は,顧客誘致の一環,利用者のアメニティ向上,企業・ビルのイメージ向上などを目的として屋上庭園を整備する一方,消極的な建設主は,設置・維持管理コストの高さ,屋上緑化設備の設置に伴う容積減少を忌避し,省管理型の粗放型屋上緑地を整備する.
3)屋上緑化関連法制度の役割
 2001年より,東京都の緑化計画書制度によって敷地面積1,000㎡以上の開発行為(公共用地では250㎡以上)において,屋上面積の最低20%の屋上緑化義務が発生したことによって,2011年までの10年余りの間に,1,000㎡以上の敷地面積を持つ390箇所の大規模民間施設において,現在の港区屋上緑化面積の41%にあたる5.37haの屋上緑化がなされた.
 2001年,東京都が容積率緩和制度のメニューに屋上緑化が追加したことで,屋上緑化を行う主体が増加した.
 2003年,港区では屋上等緑化助成金制度を開始し,2008年には助成限度額を500万円まで増額している.この増額によって既存建築物に対する屋上緑化は多少進展したが,総件数は10年余りで88件にとどまっており,効果は限定的である.
4.まとめ
 非屋上緑化建築物の屋上緑化は上記の3点に依拠している.再開発による建て替え・新築の場合,積載荷重の余裕,義務化,容積率の緩和策によって屋上緑化は大きく進展するものの,木構造建築物を含めた既存建築物への屋上緑化は進展しない.庭園型屋上緑地となるのは建設主が緑化に積極的であり,積載荷重に余裕がある場合に限られ,質的な差異も広がってきている.

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© 2014 公益社団法人 日本地理学会
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