抄録
Solheim et al.(2012)の結果を参考に、海面温度偏差(sea surface temperature anomaly-以下SSTA)と前太陽周期長(previous solar cycle length-以下PSCL)の関係を確認するために、各種海域でSSTAとPSCLの関係を調べた。SSTAとしてHadISST1を使用した。また、期間はHadISST1のデータ期間の関係から太陽周期番号12(1878.9~)~23(~2008.0)の期間である。太陽活動周期長とSSTAの関係を調べるために、SSTAとしては太陽活動周期における平均値を用いる。特に断らない限り、ここではSSTAでその平均値を示すことにする。調査結果では、SSTAとPSCLとの相関は絶対値が大きい順に並べると、(北大西洋+北太平洋)(-0.87)、北大西洋(-0.84)、北半球(-0.78)、大西洋(-0.74)、北太平洋(-0.67)、全海洋(-0.65)、太平洋(-0.65)、南半球(-0.54)となり、(北大西洋+北太平洋)が最も相関が高く、南半球で低くなっている。一方、大西洋数十年規模振動(AMO)は北大西洋のSSTAの変動に関連が深い。しかし、PSCLとの相関はそれ程高くはない(相関係数-0.61)。<BR>
全海洋SSTA(以下GL)をPSCLと(太平洋+インド洋)SSTA(以下P&I)とで推定すること試みた。P&IとPSCLには相関(-0.54)があるために、次のような方法を採用する。GLとP&Iに面積構成比の重み(0.73)を掛けて得た値の差をPSCLで回帰する。その結果は推定値の残差の標準偏差が0.04℃、推定値とGLの重相関係数が0.98となった。<BR>
P&IがGLの推移をほとんど決定している(相関係数値:0.97)。そのP&Iの推移は特徴的な形をしている。P&Iの推移の原因を明らかにすることは今後の課題である。残差が大きな時期は16、17、21周期であり、P&Iがいずれも大きく変化する時期である。<BR>
PSCLの回帰係数値は-0.06となる。PSCLが1年増加すると、0.06℃減少することを意味する。その寄与分の範囲は-0.06~0.07℃となり、あまり大きくはない。PSCLの寄与が最大の時期はこの調査の最後の周期23(1996.3~2008.0)である。GLに対するPSCLの寄与により、この周期の残差が非常に小さくなっている。なお、P&IとPSCLには相関があり、PSCLの1年の変化で約0.1℃ほど変化する。GLに対する影響はこの数値に面積構成比を乗じて得られた値である。都合PSCLの1年の変化でGLが-0.13℃ほど変化することになる。これはGLをPSCLで直線回帰した時の係数値0.14℃/年にほぼ一致する。<BR>
以上の解析が正しいとすると、PSCLの変化に起因して、周期23(1896.3~2008.0)でGLが約0.1℃ほど昇温したと推定できる。