日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: P013
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発表要旨
東松島市宮戸島の谷底堆積物から検出された過去4000年間の津波堆積物
*松本 秀明小林 文恵伊藤 晶文遠藤 大希
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抄録
1.大浜谷底平野の地形
 宮戸島は宮城県松島湾の湾口を塞ぐように位置する列島の一部をなす島である。島の北~北西岸は湾内に面し,南~東岸は外洋に面する。本研究の対象地域である大浜谷底平野の主軸は西北西-東南東方向に延び,東南東端は太平洋に面する。海岸線に沿って約300 mの砂浜海岸が延び,海岸から谷底平野奥部までの距離は1200 mである。海岸の浜堤の幅は約100 m,高さは約2 mである。浜堤背後の谷底平野の地盤高は0.5 mであり,しだいに高度を上げ,最奥地点での海抜高度は7 mである。
2.ボーリング調査と堆積物分析
 大浜谷底平野の主谷で4地点,支谷で3地点の計7地点で深度6~10 mのオールコアボーリングを行い,堆積物を採取した。採取したボーリングコアは実験室にて堆積物の層相観察と記載の後,砂質堆積物の粒度分析と泥質堆積物のイオウ分析を行った。その結果,主谷主軸に沿う4本のボーリングのうち海岸線から約500 m地点より内陸側に位置するNo.2,No.3地点および支谷に位置するNo.7,No.9のボーリング地点において海浜堆積物に類似する淘汰良好な砂の薄層をそれぞれ複数枚確認した。砂の薄層の層厚は2~3 cmであり,まれに9 cmにおよぶ厚い砂層が確認された。これらの海浜堆積物に類似する淘汰良好な砂の薄層は,いずれも陸成堆積物(腐植質粘土層)中に見いだされた。
3.放射性炭素年代測定,とくに試料採取に際して留意した事項
 陸成の後背湿地堆積物中から検出された淘汰良好な砂の薄層の堆積時期を求めるため,当該堆積物の直上に堆積する腐植物を試料として取り出しAMS放射性年代測定を実施した。試料採取に際しては,砂層上面に繁茂し枯死した草本植物遺体の葉の部位を選択的に採取することに留意した。それは,同層準に残された植物遺体であっても,根や茎などの部位は砂層堆積直後の年代を示さない場合が多いためである。
4.砂の薄層の堆積年代
 各砂の薄層の上面に堆積する腐植物の年代測定結果は以下の通りである。上位から,1600 yrBP前後に堆積した砂層が主谷に沿うボーリングコアNo.2およびNo.3に,2050 yrBP前後に堆積した砂層がNo.2,No.3,No.9のコアに,また,2400 yrBPの堆積年代を示す砂層がNo.3,No7,No.9のコアに,さらに,2650 yrBPの堆積年代を示す砂層がNo.2,No.3,No.7のコアに,そして3100 yrBP前後の年代値を示す砂層がNo.7とNo.9のコアにそれぞれ確認された。
 淘汰良好な砂の薄層を津波堆積物として認定する条件を検討した松本ほか(2013a,b)は同時期に連続的かつ広範囲に確認されることを津波堆積物認定の最低限必要な条件とした。この条件に従い,1地点でのみ検出された砂層については,現時点で津波堆積物の可能性を議論することは避けた。たとえば,支谷のNo.7のコアにおいて3800 yrBP前後の堆積年代を示す淘汰良好な砂の薄層が確認されているものの,それ以外の地点では同時期の砂層は確認されていないため,津波堆積物の可能性についての判断はできない。
5.津波堆積物の可能性のが高い砂層
 以上の結果から,大浜谷底平野では3100 yrBP前後,2560 yrBP前後,2400 yrBP前後,2050 yrBP前後,そして1600 yrBP前後の5つの時期に堆積した津波堆積物(注)が存在することが新に確認された。これらの砂層の堆積を津波によるものと仮定した場合,歴史時代に来襲した貞観地震津波(西暦869年)と慶長津波(西暦1611年)そして2011年東北地方太平洋沖地震による津波を含めて過去3200年間に7回の大津波の来襲を受けたと考えられる。
 なお,いずれのボーリング地点においても2011年東北地方東方沖地震津波による堆積物が地表に確認されるが,貞観地震津波と慶長津波による堆積物は確認できなかった。それらは耕作や圃場整備等による人為的攪乱によって消滅した可能性が高い。
注:ただし,1600 yrBPの砂層は主谷にのみ認められることや堆積高度から高潮堆積物である可能性もある。
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