日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 634
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発表要旨
群馬県北東部片品川流域における活断層の変位地形の再検討
*熊原 康博橋爪 誠
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抄録
はじめに  群馬県北東部片品川流域では,活断層研究会編(1991)により,長さ約7km,北北東-南南西走向の東傾斜の逆断層が認定され,断層と片品川の位置関係から片品川左岸断層と呼ばれた.さらに,黒ボク土を変位させる明瞭な逆断層露頭の写真も載せている.中田・今泉編(2002)では,活断層研究会編(1991)の断層トレースの位置の周辺において,より詳細な位置を提示し,二本の断層トレースが平行にのびていることを示した.両報告とも写真判読に基づくものであることや,これら以外に調査がなされていないことから,本断層の変位地形の特徴やスリップレートなどの検討は,これまで行われていない.
本発表では,断層周辺の写真判読を改めて行い,活断層のトレースの全容を明らかにし,あわせて変位基準の認定を行った.さらに,断層沿いの地表踏査を行い,断面測量および断層露頭の記載などを行った.なお,竹本(1998)は,この流域の段丘形成史の詳細な検討を行い,テフラ層序から段丘面の年代を推定した.本研究では,段丘面の年代について,竹本(1998)に依拠し,本断層のスリップレートについても議論を行う.
 結果 写真判読の結果,断層の長さは,少なくとも25kmに及び,北端は片品村東小川,南端は沼田市(旧白沢村)高平である.全体としては,北北東-南南西走向であるが,南端付近では東西走向に変化する.断層の変位様式は,多く地点で撓曲崖が認められることから,南南東上がりの逆断層と考えられる.ただし,北部では,河谷の屈曲から右横ずれ変位も伴うと考えられる.
断層の南部にあたる老神周辺では,片品川右岸の段丘面群を累積的に変形させており,活断層が存在する地形学的な証拠である.ここでは,少なくとも4段の段丘面上に南~南東上がりの撓曲崖が認められ,いずれも下流側が隆起している.これらの段丘面を変位基準とすると,上位から25~29m, 15.8~18.2m, 8.6~14.0m, 2.1m以上の垂直変位量が認められる(最近,この地域で数値標高モデル(5mメッシュ)が公開されたため,正確な値は,発表時に報告する).老神から南西部では,断層鞍部が連続し,椎坂峠に至る.峠をこえた高平地区では,高位段丘面が全体的に北に向かって傾動する.「片品川左岸断層」は,右岸にも連続していることが明らかになったことから,本断層を「片品川断層」と呼ぶほうが適切である.
本断層の中部では,片品川左岸沿いの高位段丘面や,段丘面上に形成される新期扇状地面に撓曲崖が連続的に認められる.築地地区では,扇状地面の撓曲崖下で,直立する古期湖沼堆積物の露頭を発見した.露頭では,本堆積物中にマイナーな逆断層性断層も観察でき,断層上盤側の圧縮変形を示しているものと推定される.
断層北部は,直線的なトレースで,いくつかの河谷がトレース上で右屈曲していることから,右横ずれ変位が卓越していると推定される.東小川では,写真判読で推定した断層トレース上で基盤岩中に,破砕帯と断層粘土を伴う高角な断層(N64°E, 84°E)が認められた.
 議論 本断層の垂直変位量と竹本(1998)による段丘面の年代から,本断層の長期にわたる垂直スリップレートは0.27-0.4mm/yr.である.しかし,計測した変位地形はいずれも撓曲崖であることから緩い傾斜と推定されるので,ネットの変位量はさらに大きくなり,それに伴いスリップレートも大きな値になると予想される.
また,断層長は25kmに及ぶことから,松田(1975)による地震断層の長さとマグニチュードの経験式から,25kmの断層線が一度に断層破壊が生じるとみなすと,M=7.2程度の地震が想定される.ただし,断層の北延長はさらにのびる可能性がある.
文献 活断層研究会編(1991)『新編 日本の活断層』;竹本(1998)地理評,71, 783-804;中田・今泉編(2002)『活断層詳細デジタルマップ』;松田(1975)地震2, 28, 269-284.
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© 2014 公益社団法人 日本地理学会
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