日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: 410
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発表要旨
創造産業集積地域における重層的な外的リンケージ―上海広告業を事例に―
*趙 政原
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抄録

グローバル化の進展は,従来の産業集積に大きな変容を与えてきた.企業はローカルなリンケージに限らず,グローバルなネットワークに組み入れられ,ローカル,グローバル双方の影響を強く受けている.文化創造産業に関しては,地理的集積とともに,グローバルリンケージの重要性が指摘されてきたが,そうした研究の大半は先進国を対象にしたものであった.上海をはじめ,経済成長とともに,急速に拡大している中国の世界都市では,多数の多国籍広告会社が進出する一方で,地元の中小広告会社の増加も著しい.中国の新興世界都市において,どのように企業間関係が構築され,産業集積地域でいかなる変化が生じているか,こうした点については未解明な点が多い.
本報告では,統計資料の分析および現地調査の結果をもとに,各広告会社の立地行動と空間分布を確認した上で,取引関係の地理的範囲,重層的な空間展開,および域内外の労働市場などから,集積地域の内的構造を検討する.
中国広告産業の特徴として,①多国籍企業が人材,資本,クライアント資源などのあらゆる面に優位で,市場をリードしていること,②広告産業の市場経済化が進む一方で,関連したメディア部門は国家統制力が強く,省や都市ごとの地域障壁が高いこと,③人材は特定の企業に対する忠誠心が低く,転勤・転職が頻繁で,高質な広告人材が不足する一方で若手クリエーターが大量存在すること,④北京,上海,広州の3大中心都市に集積する傾向が強いこと,以上の4点を指摘できる.創造産業部門の最大集積地である上海は,全国20%の広告関連企業,14%の広告費を占める.
上海の広告業は,少数の大型広告企業(日本や欧米の外資系が中心)と大多数の中小規模民間企業と2極化している.大型会社は,都心部に集積するのに対し,中小会社は市内の各場所に幅広く分散している.
大規模な広告会社における取引関係や事業展開の地理的範囲は比較的広く,全国市場を相手に北京と広州に拠点を持っている.中小規模の広告会社の場合,地域障壁に止められ,取引はほぼ上海市内のメインクライアントに依存しているとみられる.この差異は,取り扱う商品や使用した媒体にも反映されている.
一方,広告人材の社会ネットワークでは,ベテランの高級人材や若手クリエーターの存在によって,多様で重層的な外的リンケージがみられる.地方政府の行政指令によって広告会社の空間集積は市街地において多数整備され,産業支援策として起業活動に多くの利便性が与えられた一方,激しい競合関係で集積内の情報交換・相互学習はまだ低いレベルに止まっている.そこで,ローカル環境で連帯感が持つ若手クリエーター間では,サイバー空間での情報共有が活発になされている.それに対し,大型広告会社の経営者や高級人材は,全国各地で開催された広告やメディア関連のフォーラム,イベントを通じ定期的に面会し,比較的安定化したネットワークが構築されている.
従来の産業集積理論は,ローカルな小規模の製造業企業を想定したうえで発展してきた.上海広告業の集積は,企業と労働市場の階層性に対応し,グローバル・ナショナル空間とローカル空間に2極分化した内的構造を特徴とするものといえる.ピラミッドの上層部に位置し,グローバル志向の大型広告会社と高級広告人材にとって,世界都市としての上海は,域外のビジネス資源や知識情報を活用できる利便性を提供した.それに対し,中小広告会社や若手クリエーターの外的リンケージはよりローカルなものであり,彼らにとって,上海という場はピラミッド上層部への近接性を与えるものになっている.

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© 2014 公益社団法人 日本地理学会
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