日本地理学会発表要旨集
2014年度日本地理学会春季学術大会
セッションID: S0510
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発表要旨
様々な気候帯における人間活動と微地形利用
*池谷 和信
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抄録
1 はじめに
 地理学は、地球上のすべての地表面を対象にした学問であり、人類による微地形利用に関してこれまで多数の研究を蓄積してきた。しかし、これらは世界各地のミクロな地域の事例研究として紹介されることが多く、人類の微地形利用をとおして地球のなかの地域性を把握する枠組みを構築する試みはほとんどみられない。本研究では、筆者が現地調査を進めてきた事例研究を比較することから、人類の微地形利用に関する地域的特性と一般的な傾向を把握することをねらいとする。まず、気候帯によって、熱帯、温帯、寒帯、高山帯、海洋に地球環境を5分類する。そして、そこでの人類の微地形利用の詳細について事例を報告する。
2 結果
 世界の熱帯は、湿潤と乾燥に分かれる。湿潤では、アマゾン川流域(事例1)とバングラデシュのベンガルデルタ(事例2)をとりあげる。両者とも、氾濫原での微地形利用が特徴的である。水位の変化にともなう氾濫域の違いに応じて、土地利用が異なる。前者ではバナナやキャッサバの農耕地の選択、後者では稲の異なる品種の選択や豚の遊牧などに微地形の条件が大きく関与する。一方で、乾燥では、カラハリ砂漠(事例3)とソマリランド(事例4)をとりあげる。両者とも年間の降水量が500mm以内で、年変動が激しく、干ばつの多発地域である。ここでは、パンや人口プールが人びとや家畜が利用する水を貯蓄するために欠かせない。
 温帯は、日本の東北地方の山地における狩猟、採集、焼畑、放牧のような伝統的生業をとりあげる(事例5)。これらは現在、衰退したり消滅しつつある活動であるが、山地の斜面や平坦部を利用する活動であった。なかでも、ゼンマイ採集活動は、多雪地帯の急峻な地形を細やかに利用するものであり、世界的にみてユニークな利用形態を示す。
 寒帯は、極北のロシア北東部チュコト自治管区をとりあげる(事例6)。ここでの生業の中心は、ツンドラ植生を利用するトナカイ牧畜である。この牧畜の場合、冬季のあいだ降雪の状況が微地形で異なるのに応じて植生が異なっており、トナカイの放牧に影響を与える。なお、4千mを越えるプーノと呼ばれるアンデスの高地(事例7)では、リャマやアルパカの牧畜、ジャマイモなどの農耕が生業の中心である。ただ、微地形が重要であるのか否かは不明である。また、海洋は、熱帯から寒帯まで広がっているが、サンゴ礁での微地形利用が知られている(事例8)。
3 比較考察
 以上の8事例から、「微地形、植生、土地利用を1つのシステム」として把握することが重要である。筆者は、人類の活動を反映する土地利用から微地形にアプローチしてきたが、現代の地球では、土地と人類とのかかわりが希薄になっていて、地表空間に対する人類のかかわり方の変化を歴史的に把握することが不可欠になっている(池谷編2009)。また、地球のさまざまな気候帯において、農耕、家畜飼育、水利用、採集などの微地形利用に共通性を指摘できる。さらに、人類は狩猟採集、農耕、牧畜、都市の社会へと進化してきたとみられるが、現代の都市の土地利用では、微地形の利用が軽視されてきたことで、さまざまな問題が生じている。筆者は、地理学では古今東西の微地形利用を地球環境史の視点や生き物文化の視点から広く総合的にまとめることが重要であると考えている(池谷編2013)。
文献
池谷和信編2009『地球環境史からの問い』岩波書店。
池谷和信編2013『生き物文化の地理学』海青社。
著者関連情報
© 2014 公益社団法人 日本地理学会
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