抄録
地球温暖化の生物への影響を評価には、生物分布モデルを使った種の潜在分布域の予測が使われることが多い。生物分布モデルでは、一般的に生物の分布図や生物標本などの調査データが使われるが、モデルのインプットとなるデータの種類の違いが予測結果に与える影響については明らかになっていない。本研究では、分布の異なる14種の日本の植物を対象に、生物の分布図と、在・不在情報を持つ調査データ、在情報のみの調査データの3種類の異なるデータを用いて、生物分布モデルを構築し、モデルの精度を比較した。生物分布モデルには、不確実性を考慮するため、ニューラル・ネットワークとMaxentモデルの2種類を使用した。また、温暖化気候シナリオを用いて2100年の種の潜在分布域の予測を行い、現在と将来の分布域を比較することにより、対象植物に対する地球温暖化の影響を評価した。その結果、高標高に生息する植物では調査データが、それ以外の植物については分布図のほうがモデルの精度が高かった。地球温暖化の影響下における将来の分布では、分布図のほうが調査データより、温暖化の影響が強いという結果になった。在・不在と在のみデータでは、低解像度では違いは少なかったが、高解像度では、在・不在データのほうが精度が高かった。この結果は、データの種類によりデータ取得の方法が異なり、誤認不在データの割合、サンプリングのバイアス、解像度の違いに起因する。生物分布モデルを温暖化影響評価に使う際は、対象とする種やデータの特徴を精査した上で、適したデータを選ぶことが重要である。